第24話 海の中の不穏な気配
海底城アクアリウス――光のドームに守られた美しい城は、透き通る海水の中に浮かび、色とりどりの珊瑚や魚たちが周囲を舞っていた。しかし、その静寂の中に不穏な影が潜んでいることを、カイは感じていた。
若き光の使い手であるカイは、村長グレイの息子として育てられたが、この地ではただの見習いとして、ひっそりと暮らしていた。だが、最近になって城の周りで行方不明者が増え、住民たちの間には不安が広がっていた。
「また……行方不明者が出たのか?」
カイは、城の廊下で低く囁かれる声に耳を傾けた。防護服に身を包んだ探索隊が、疲れた顔で戻ってきたのを見て、胸の奥がざわついた。
「見つからなかった……影を見たという証言はあったが、それ以外は手がかりなしだ。」
カイは握りしめた手を見つめた。
「影……?」
彼は城の図書室へ足を運んだ。古い文献や地図をひっくり返し、過去の記録を探る。
「巨大な影、行方不明者、そして深海……」
カイは震える手で一冊の本を開いた。そこには「深淵の巨影(ディープシェイド)」と呼ばれる存在の記録が残されていた。
「人の心に恐怖を植え付け、影に飲み込む……その正体は、虚無の力……?」
彼の脳裏に、父の教えが蘇った。
「光は闇を照らし、闇を打ち払う。」
カイは立ち上がった。
夜が訪れ、城内の明かりが淡く揺れる頃、カイは一人、城の外へと向かった。防護ドームを抜け、冷たい海水が肌を包み込む。
彼は海底の岩陰に身を潜め、静かに目を凝らした。
その時だった。
遠くの暗闇から、巨大な影がゆっくりと動いているのが見えた。
「あれが……?」
影はまるで海そのものが動いているかのように、静かに、しかし確実に近づいてくる。その姿に目を凝らすと、無数の赤い光が浮かび上がった。
「目……なのか?」
その恐ろしい視線がカイに向けられた瞬間、彼の体は凍りついたように動かなくなった。
影の中から、冷たい囁きが聞こえてくる。
「……お前も、飲み込んでやる……」
カイは光の魔力を手に宿し、小さな光球を作り出した。しかし、その光は影に吸い込まれるようにかき消されてしまった。
彼は息を整え、恐怖に負けまいと強く心を奮い立たせた。
「僕は……逃げない!」
その時、影は一瞬動きを止めた。カイの中にある光の輝きが、わずかに闇を裂いたのだ。
彼はその隙をつき、全力で城へと戻った。
城に戻ったカイは、急いで司令官たちに報告した。しかし、彼の話を信じる者は少なかった。
「ただの若造が……」「影? そんなもの、見間違いだろう。」
しかし、カイの心は確信していた。あの影は、ただの自然現象ではない。虚無の力、そして彼の父が戦ってきたものと同じ“闇”が、この海底にも広がろうとしているのだ。
カイは決意を新たにした。
「父さん……僕は、この影を打ち払う。そして、光を取り戻してみせる!」
彼の目には、幼さを超えた強い光が宿っていた。
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