第22話 光の残像
虚無のホールの中、村長グレイは冷たい闇の中に浮かんでいた。体は動かず、虚無の触手が彼の体を締め付け、命を少しずつ蝕んでいく。周囲は無音、暗闇に包まれ、時間の感覚すら失われていた。
だが、彼の意識はまだ消えていなかった。薄れゆく意識の中、彼の瞳には過去の光景が浮かび上がっていた。
「お父さん! 見て、光の花が咲いたよ!」
そこは、彼の家の庭だった。幼いカイが、小さな手をかざして光の魔法を使い、宙に小さな花の形を浮かび上がらせていた。優しい金色の光が揺らめき、庭一面に温かさを広げていた。
グレイはその時、カイの才能に驚きつつも、その力が将来大きな試練を呼ぶかもしれないという不安を感じていた。
光景は変わる。
「父さん、どうして光の魔法はこんなに温かいの?」
夜の囲炉裏の前、カイは膝を抱えてグレイに問いかけていた。
「光は、希望や愛から生まれるんだ。お前の心が優しいから、その光も温かいんだよ。」
カイは照れくさそうに笑い、グレイの膝に頭を乗せた。その重みが今でも胸に残っているように感じられた。
再び光景が変わり、今度は嵐の夜。
グレイは焦りながら、家の中にカイを連れ戻していた。村の近くにヴァルスの手下が現れたという報せが届いた夜だった。
「カイ、絶対に外に出てはいけない。何があってもだ。」
「……分かったよ、父さん。」
彼の瞳には、不安と、それでも父を信じる強い意志が見えた。
最後の光景が浮かぶ。
グレイはカイを安全な場所へ送るため、秘密の地下道を歩いていた。手に握った転送の魔法具が淡く光り、カイは小さな荷物を背負い、不安そうに彼を見上げていた。
「海底城アクアリウス……そこならお前は安全だ。」
カイは小さく頷いた。
「父さんも、すぐに来てくれるよね?」
グレイは笑顔を作ったが、喉に苦いものがこみ上げていた。
「もちろんだよ。お前が強くなったら、一緒に帰ろう。」
意識が現実に引き戻される。
虚無の闇の中、彼の体は限界に近づいていた。しかし、彼の心の中にはまだ一筋の光が残っていた。
「カイ……お前は、強く生きろ……私は、必ず……」
彼の視界は闇に閉ざされ、光の残像だけがまぶたの裏に焼き付いていた。
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