第20話 虚無の最後



村長グレイは、虚無の中に浮かぶ崩れた村の広場に立っていた。周囲は戦火の名残で焦げた匂いが漂い、倒れた家々や焼けた木々が無残な姿を晒していた。彼は光の槍を握りしめ、虚無の気配を感じ取っていた。


「来るか……」


空間が揺らめき、闇の裂け目が現れた。黒い霧が流れ出し、そこからヴァルスがゆっくりと姿を現した。虚無の力を使い果たした彼の姿はぼろぼろで、影のマントは破れ、瞳にはかつての余裕はなかった。


「ふん……こんなところまで飛ばされるとはな……」


ヴァルスは地面に膝をつき、息を整えながらも、虚無の力を手に集め始めていた。


グレイは一歩踏み出し、光の剣を構えた。


「ヴァルス……ここまでだ」


ヴァルスは苦しげに笑った。


「あの小僧にやられた…だが、私が敗北することなどあり得ん……虚無は終わらない……」


黒い霧が彼の体を覆い、虚無の力が再び彼に宿り始める。影の触手が地面から伸び、辺りを包み込むように広がっていった。


グレイは剣に光の呪文を込め、剣先が白く輝いた。


「この村も、未来も、お前には渡さない!」


「消え失せろ……!」


ヴァルスは闇の刃を生み出し、グレイに向かって投げつけた。


光と闇がぶつかり合い、爆発的な衝撃波が広場を覆った。


グレイは剣を振り、闇の刃を打ち払った。しかし、ヴァルスは瞬間的に影と化し、彼の背後に回り込んでいた。


「《虚無の突刺(ボイド・スティング)》!」


影の槍がグレイに向かって放たれた。


彼はギリギリで身を翻し、槍の先端が彼の肩を掠める。影が彼の傷口に入り込み、鈍い痛みが走った。


グレイは膝をつきかけたが、光の槍を地面に突き刺し、力を込めた。


「《浄化の光(ピュア・ライト)》!」


彼の体から放たれた光が、影の侵食を焼き払い、傷口が白く輝いて回復していく。


ヴァルスは舌打ちをし、さらに虚無の力を解放した。


「虚無はすべてを飲み込む!お前の光など無意味だ!」


地面から無数の影の触手が伸び、グレイを取り囲んだ。


しかし、彼は一歩も引かず、光の槍を握りしめた。


「光は消えない。希望は、必ず闇を裂く!」


彼は剣を大地に突き立て、光の輪が広がった。影の触手は焼かれ、次々と消えていく。


ヴァルスは再び虚無の裂け目を開き、逃げようとした。しかし、グレイはその瞬間を逃さなかった。


「《光槍飛翔(ライト・ランサー)》!」


彼の槍が光の矢となり、虚無の裂け目に突き刺さった。


裂け目が激しく揺れ、虚無の霧が逆流を始める。ヴァルスはその力に巻き込まれ、影の中で叫び声を上げた。


「まだだ……私は……虚無は……!」


彼の姿は闇に溶け、虚無の裂け目が消滅した。


グレイは荒い呼吸を整えながら、倒れ込んだ。


彼の光の槍は、朧げに光り続け、闇が完全に消え去ったことを示していた。

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