第19話 おしまい?

炎と虚無の激突


レオの目の前に立つヴァルスは、虚無の闇を纏い、不気味な黒いオーラを放っていた。虚無の龍を操る男は、まるで底の見えない闇そのもののように冷酷な笑みを浮かべている。


「貴様ごときが、私に刃向かうとはな……」


ヴァルスは闇の手を広げ、虚無のエネルギーを収束させていた。空間が歪み、黒い霧が渦を巻く。


レオは拳を握りしめ、本のページに浮かび上がる炎の呪文を読み上げた。彼の体を包む炎が、周囲の闇を焼き払う。


「もうお前の好きにはさせない!《焔龍顕現(えんりゅうけんげん)》!」


紅蓮の炎が渦を巻き、レオの背後に巨大な炎の龍が出現した。龍は咆哮を上げ、熱波が大地を焦がす。


「面白い……ならば見せてやろう、虚無の絶望を!」


ヴァルスは手をかざし、闇の龍を召喚した。虚無の龍は、全ての光を吸い込むような漆黒の鱗を持ち、空間そのものを食らうように蠢いている。


「行け、炎龍!」


レオは龍と共に突撃した。炎の龍は虚無の龍に噛み付き、炎と闇が激しくぶつかり合う。火花と影が空中で爆ぜ、周囲の景色が焼け焦げ、黒く染まっていく。


虚無の龍は闇のブレスを吐き出し、炎の龍を飲み込もうとするが、レオの炎はその闇を突き破った。


「お前の闇なんて、俺の炎で全て焼き尽くしてやる!」


レオは本に手をかざし、新たな呪文を読み取った。本のページが燃えるように光り、炎の剣が彼の手に形を成した。


「《煉獄剣(れんごくけん)》!」


剣から迸る炎が、虚無の影を焼き尽くしていく。


ヴァルスは冷笑を浮かべ、虚無の影から無数の腕を伸ばしてレオに襲いかかる。


「無駄だ、私の虚無に抗える者など存在しない!」


しかし、レオはその闇を恐れることなく突き進む。


彼の剣が闇の触手を断ち切り、炎の龍が虚無の龍の喉元に噛み付いた。


「終わりだ、ヴァルス!」


レオは虚無の中心に向かって剣を突き立てた。


剣から放たれた炎が、ヴァルスの影の鎧を溶かし、虚無の霧を焼き払っていく。


ヴァルスは悲鳴を上げ、虚無の力が崩壊していくのを感じていた。


「ば、馬鹿な……私が……この私が……!」


しかし、彼は最後の力を振り絞り、闇を集束させて禁断の呪文を唱えた。


「《虚無の爆心(ボイド・コア)》!」


虚無の力が一点に凝縮され、次の瞬間、周囲を飲み込むほどの暗黒の爆発が起こった。


レオは炎の龍を盾にして爆発を耐えたが、彼の力も限界に近づいていた。


彼の目の前で、ヴァルスの姿は黒い霧となり、崩れ落ちていく。


しかし、霧の中から彼の不気味な笑い声が聞こえた。


「ふははは……終わりではない……虚無は不滅だ……」


その声と共に、ヴァルスは虚無の裂け目を開いて姿を消した。


レオは息を切らし、炎の剣を地面に突き立てた。


「……逃がしたか。でも、必ず追い詰めてやる」


彼の体から炎が収まり、本は静かにページを閉じた。


彼の中に宿る新たな力は、まだ完全に制御できていないが、今はただ、倒れた仲間たちの元へ戻ることを優先した。


彼の胸の中に燃える炎は、決して消えることはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る