第18話 レオの怒り

(レオ視点)


村長グレイが虚無のホールに飲み込まれ、光の剣が消え去った瞬間、レオの心の中で何かが弾け飛んだ。


「……嘘だ……嘘だろ……」


レオの手は震え、目の前の現実を受け入れられない。

幼い頃から慕ってきた村長、彼の強さと優しさに導かれた日々が、突然奪い去られた。


その胸に広がるのは、言葉にできない喪失感と、焼けつくような怒りだった。


「ククク……どうした、若き魔法使いよ。」


ヴァルスは影の中から姿を現し、薄笑いを浮かべていた。


「お前の師はもういない。お前もすぐに彼と同じ場所へ送ってやろう。」


その言葉が、レオの怒りに油を注ぐ。


「……お前……」


レオの体から、赤い光がほとばしる。

彼の手に握られた本は、まるで呼応するかのようにページがめくれ、光を放ち始めた。


「絶対に許さない!」


レオの叫びとともに、周囲の空気が変わった。


彼の体を中心に、赤と金の炎が渦を巻く。

その炎は、ただの火ではない――怒りと悲しみ、そして覚醒した力が混ざり合った、魂の炎だった。


「《炎獣化(ビーストフレイム)》!」


レオは本に記された獣化の呪文を唱えた。

だが、これまでとは違う。彼の内なる感情が、呪文にさらなる力を与えていた。


彼の体は炎に包まれ、その姿はまるで猛獣のように変化していく。

獣化の呪文と炎の魔法が融合し、彼の背中には燃え盛る翼が生え、瞳は赤く光を放つ。


「面白い……だが、そんな未熟な力で私に勝てると思うな!」


ヴァルスは手をかざし、黒い影の槍を複数作り出す。


「消え失せろ!」


槍が音を立てて空間を裂き、レオへと放たれる。


だが、レオは一歩も引かなかった。


炎の翼を広げ、彼は槍に向かって突進する。

影の槍が彼の体に触れる直前、彼の拳から放たれた炎がそれらを蒸発させた。


「お前には、何も消させない……!」


レオは一息でヴァルスの目前まで飛び込み、拳を叩きつける。


炎の拳が空気を焼き、衝撃波が周囲の影を吹き飛ばす。


ヴァルスは間一髪で影の壁を作り、直撃を防いだが、その防壁さえも焦げついていた。


「この小僧……!」


ヴァルスの表情から余裕が消え、苛立ちが見て取れた。


彼はさらに虚無の霧を操り、無数の影の手を生み出してレオを絡め取ろうとする。


しかし、レオの体を包む炎は、触れた影をことごとく焼き尽くした。


「グレイ村長の光は、俺が受け継ぐ!」


レオは本を掲げ、新たな呪文を解放する。


「《炎爆裂(フレアバースト)》!」


彼の手から放たれた炎の光球が、虚無の霧を切り裂き、ヴァルスに迫る。


その光は、まるで夜明けのように暗闇を貫き、闇を焼き尽くす力を秘めていた。


ヴァルスは防御の魔法を唱えるも、光炎の爆発は影の壁を打ち砕き、彼の体に直撃した。


「ぐっ!」


彼のマントが焼け、影の一部が消し飛ぶ。

初めての痛みに、ヴァルスは苦悶の表情を浮かべた。


しかし、ヴァルスはまだ立ち上がる。


その体から黒い霧が立ち上り、影のエネルギーを吸収して再生していく。


「終わりではない……むしろ、ここからが本番だ。」


彼の周囲に、虚無のホールがいくつも開かれ、さらなる闇の兵士たちが溢れ出す。


レオは炎の中で立ち尽くし、燃え盛る瞳でヴァルスを見据えた。


「どれだけ闇が来ようとも……俺は負けない。」


彼の炎はますます強く燃え上がり、虚無の霧すら焼き払うほどの熱を帯びていく。


光と闇、炎と影がぶつかり合い、戦場はまさに地獄のような光景と化した。

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