第10話 ベルゼムへ

(レオ視点)


霧に包まれた呪われた村を救い出したレオは、村人たちから感謝を受けながらも、すぐに次の目的地へと足を進めていた。


「子供たちがヴァルスに連れ去られた……」


村人たちの言葉が、レオの胸に重くのしかかる。

虚無の魔法使いヴァルスは、各地で暗躍し、手下を使って人々を苦しめている。


「子供たちが連れて行かれたのは、武器の街ベルゼム……」


ベルゼムは、険しい山々に囲まれた交易都市だ。

かつては武器の鍛造と交易で栄えたが、今では裏社会が暗躍し、治安が悪化しているという。


日が暮れる前に街にたどり着くのは難しく、レオは街の手前の山中で野営をすることにした。


彼は開けた場所を避け、岩陰に小さな焚き火を起こす。

火の温もりと、かすかな薪の燃える音が、心を落ち着かせてくれる。


「……本、頼むぞ。」


レオは膝の上に広げた魔法の本を見つめた。


これまでに火炎の魔法、獣化の魔法、霧操の魔法など、いくつかの呪文を登録してきた。


「この本に新たな魔法を登録すれば、もっと強くなれる……」


しかし、手がかりは少ない。

本の力を引き出すには、何か特別な条件があるようだった。


焚き火が小さくなり、レオが眠りにつこうとしたその時だった。


サラッ……


背後の茂みから、何かが動く音がした。


レオはすぐに目を開き、気配を探る。


「……誰だ?」


しかし、返事はない。


風の音か、獣か、それとも──


「今だ!」


突然、闇の中から黒いフードを被った者たちが飛び出してきた。

彼らはレオを取り囲み、武器を構えている。


「レオ、貴様の持つ本……渡してもらおうか。」


「ヴァルスの手下か……!」


レオは本を強く握りしめた。


「奪われてたまるか!」


手下たちは一斉に襲いかかってきた。

レオはすかさず霧操の魔法を唱え、足元から濃い霧を立ち上らせた。


「くそ、霧だ!」「姿を見失うな!」


手下たちは混乱するが、彼らの動きは的確だ。

どうやら、霧に対する対策を取っているらしい。


レオは獣化の魔法を発動し、鋭い爪と俊敏な動きで一人を倒した。


「強い……だが、囲んで仕留めるぞ!」


次々と襲いかかる手下たち。

レオは疲労が蓄積し、動きが鈍くなっていく。


ついに彼の足がもつれ、地面に転がった。


「今だ! 本を奪え!」


一人の手下が飛びかかり、レオの手から本を奪おうとする。


「……くっ、やめろ!」


しかし、力が入らない。

彼は本を奪われまいと必死に抵抗するが、手下の力は強く、彼の手から本が引き離されようとしていた。


「終わりだ、レオ……!」


その時、本のページが眩く光を放った。


浮かび上がったのは、見たことのない呪文。


『影遁の魔法』


レオは反射的に呪文を唱えた。


すると、彼の体は影のように溶け、地面に染み込むように消えた。


「な、どこへ消えた!?」「影の中だ……!」


手下たちは辺りを見回し、混乱する。


レオは影の中を滑るように移動し、手下たちの包囲から抜け出した。


ようやく安全な場所にたどり着いたレオは、荒い息をつきながら岩陰に身を潜めた。


「危なかった……でも、本は守れた。」


本には新たな呪文が登録されていた。


『影遁の魔法──《シャドウ・シフト》、登録完了。』


「これなら、敵の目を欺ける……」


レオは本を閉じ、静かに夜が明けるのを待つ。


明日こそ、武器の街ベルゼムで手下たちの手がかりを掴み、子供たちを救い出さなければならない。


彼の旅は、まだ終わらない。

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