第11話 潜入

(レオ視点)


レオは岩陰に身を潜め、街ベルゼムの高い城壁を見上げていた。

山に囲まれたこの街は、自然の要塞のように外界から隔絶されている。

昼間は門が開いていても、夜になると厳重に閉ざされ、門番たちが監視していた。


「正面突破は無理か……」


門には二人の門番が立ち、時折、松明の光が闇を裂いている。

彼らの間を抜けるのは容易ではない。


レオは手にした魔法の本を開いた。

先ほど手に入れたばかりの新しい呪文、《影遁の魔法(シャドウ・シフト)》が、かすかに光を放っている。


「暗くなるのを待とう……」


彼は焚き火をせずに体を丸め、日が沈むのをじっと待った。

冷え込む山の夜、彼の吐く息は白く凍りつきそうだったが、じっと動かないことで気配を消した。


やがて、太陽が完全に沈み、月も雲に隠れてしまった。

ベルゼムの城壁は、ほんのりとした松明の明かり以外、暗闇に包まれている。


「今だ……」


レオはゆっくりと立ち上がり、本に手をかざした。


「《シャドウ・シフト》」


彼の体はゆらりと影に溶け、まるで夜の闇に溶け込んだかのように姿を消した。


サラサラ……


影と化したレオは、地面を這うように門へと近づく。

門番たちは寒さに震え、肩を寄せ合って話しているが、影の中のレオには気づかない。


「……最近、子供が行方不明になってるって話、聞いたか?」


「聞いた聞いた。あれ、街の裏で何かヤバいことが起きてるんじゃないか?」


「でも、そんな話をしたら街の連中に消されるかもな……」


門番たちは声を潜め、不安げに話していた。


「(やはり、子供たちはここにいる可能性が高い……)」


レオは影のまま門の下を抜け、街の中へと忍び込んだ。


ベルゼムの街中は、昼間の喧騒が嘘のように静まり返っていた。

石畳の路地に響くのは、遠くから聞こえる犬の遠吠えと、時折通り過ぎる巡回兵の足音だけ。


レオは慎重に影を移動させ、建物の壁際を進んでいく。

《シャドウ・シフト》は持続時間が限られているため、無駄に動けば魔法が切れてしまう。


「……まずは、手下たちのアジトを探さないと。」


街の奥、古びた倉庫街に向かうことにした。

闇市や裏取引が行われる場所として、噂に聞いていたからだ。


影に紛れて、レオは倉庫街へと進む。

途中、巡回兵が通り過ぎても、影として地面に潜み続ければ見つかることはない。


古びた倉庫の前、レオは一際怪しげな雰囲気を放つ建物を見つけた。

中からはかすかな灯りが漏れ、男たちの低い声が聞こえる。


「……ヴァルス様は、まだ満足していない。もっと子供を集めろと言われている。」


「もう近隣の村には子供なんて残ってないぞ……どうする?」


「街の孤児でも何でもいい。失敗したら、俺たちが闇に飲まれるだけだ。」


レオの心臓が高鳴った。

ここに手がかりがある……だが、突っ込むのは危険だ。


彼は一旦、影の中から引き返すことにした。

今は情報を集め、しっかりとした準備を整える必要がある。


「子供たち……待ってろよ。」


影の中、レオの瞳は静かに燃えていた。

彼の旅は、さらなる危険へと進んでいく──。

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