第4話
ザザーン、ザザーンと、心地のいい音をたてながら波が寄せては引いていく。
私は電車を乗り継いで、一人で海までやってきていた。
女性に言われてきたのではない。私が行きたいと思って自ら計画をたてて遊びにきた。
目の前に広がる大きな海は、海が賑わう夏のシーズンは過ぎているため、私のように遊びに来た人は数少ない。砂浜では地元の子供らしき子たちが砂をあさってなにかを探している。
「あっ、あった!」
「俺も、俺も!」
砂浜を手でかき分けた男の子たちはなにかを誇らしげに持っていた。
私は気になって砂浜に降りると、彼らに声をかける。
「なにを見つけたの?」
以前の私だったら、ここで声をかけるなんて、選択肢にすら出なかっただろう。しかし、世界はそんなに私に悪意を持っているものではない。声をかけても無視されるなんて、勝手に思い込むのはやめたのだ。
「え? えーとね、これシーグラスっていうやつ」
「今度、図工の授業で使うんだ!」
私が声をかけた男の子たちは最初は驚いた顔をしたものの、快く返事をしてくれた。男の子の持っている袋には先程見つけたものではないシーグラスがたくさん入っている。
「いっぱい集めたんだね」
「うん!」
「毎日こいつと一緒に頑張って探してるんだよ!」
「すごいね!」
私が褒めると男の子たちはへへ、と嬉しそうに笑った。
「あっ、そうだ。いっぱいあるからお姉さんにも一つあげるよ!」
「これどう? これ綺麗じゃない?」
「わぁ、いいの? ありがとう、すごく綺麗な色だね」
「うん!」
「大切にしてね!」
男の子たちは袋から青いシーグラスを取り出し、私に手渡した。透き通った海みたいに綺麗な色をしている。
「僕たちはもう帰るから」
「お姉さんもはやく帰らないとお外暗くなっちゃうよ」
「うん、ありがとう。きみたちも気をつけて帰ってね」
「うん!」
「バイバイ!」
男の子たちは元気に手を振って走って行く。
「さむっ」
風が少し強くなってきた。風を遮る遮蔽物がないここは潮風をもろに受けて少し肌寒さを感じる。
私も帰ろうと駅に向かった。帰りの電車に乗って、窓から先程いた海を見つめる。
もし、あのとき死んでいたら。もし、私が海に来なかったら。もし、私があの子たちに声をかけなかったら。きっとこの手にあるシーグラスと、海に来て男の子たちと話して感じた温かくて優しい気持ちは得ることはできなかったのだろう。
「……生きてて、よかった」
私は心からそう思った。
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