第2話
「もしもし」
「はい、どうされました? ああ、あなたね。今度は美味しいケーキ屋でも教えましょうか」
「お願いします」
今日は体育の授業がしんどかった。二人一組のチームを作れと言われて、最後まで一人だった私は気を遣ってくれた先生と組むことになった。それが恥ずかしくて、情けなくてしかたがなかった。
だから私はつらくなって、メモしていた番号に電話をかけた。すると相手もすぐに私だと気づいてくれて、今度は美味しいケーキ屋さんを教えてくれた。
「この辺に詳しいんですね」
「私もね、昔教えてもらったのよ。それを覚えていただけ」
「私の知らないところもあって、意外とこの町って広いんだなって思います」
「私も昔、同じこと思ったわ」
こんな田舎だと思っていた町にも、探してみれば意外とたくさんの店がある。私はつらくなったときは電話をかけ、女性に勧められた店を回ったりして過ごしていた。
「あっ、私この後、会議なの。もう切るわね」
「はい、いつもありがとうございます」
どっちつかずの半端者の私が生きていられるのは、彼女がいるからだろう。彼女が話を聞いてくれて、美味しいお店を教えてくれて、そこへ行こうと私は足を進める。
あの電話ボックスでかけた相手がこの番号でよかった、と心底思いながら、私はさっそく教えてもらったケーキ屋に向かった。
その店は普段の私なら入らない、いや、入る勇気が出ないようなおしゃれな店だった。しかし、ラーメン屋のときのようにもう店前で立ち止まりはしない。
店に入ると店員に「いらっしゃいませー」と声をかけられる。
ショーケースに並ぶ色とりどりのケーキに目を輝かせながら、私はチョコケーキかいちごタルトにするか迷っていた。
「こちらのチョコケーキは濃厚で深い味わいをお楽しみいただけます。背の部分に砕いたピスタチオがついており、食感もいいですよ」
「こちらのいちごタルトは新鮮ないちごを使っており、糖度も高く、甘いのが特徴です。いちごの下にはカスタードクリームが絞られており、タルト生地も当店自慢のこだわりの出来になっております」
悩む私に気を利かせた店員がケーキの種類と、どんなものか特徴とこだわりを説明してくれる。
聞けば聞くほど迷ってしまう。
「うーん、こうなったら……二つともください!」
「かしこまりました。お買い上げ、ありがとうございます!」
学生の財布事情としてはケーキ屋でケーキを二つ買うのは少し苦しい。しかし今日は体育でつらい思いをしたのだ。自分を甘やかしてあげよう。
「ありがとうございましたー!」
店員の声を背後に、店を出る。
帰ったらすぐに食べよう、そう思って急いで帰路についた。
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