第41話
「嫌だよ、カズ、行かないで!」
「どこにいても、なにも言わなくても、俺は君を愛してる」
その言葉が最後だった。
カズは見えないなにかに引っ張られるように上を向いて昇り始めた。
光の柱を、ただまっすぐに天に上昇していく。
「お願い、そばにいて!」
私の叫びは届かず、カズの姿は光に溶けて見えなくなった。
「そんな……」
私はがくっと膝を突いて座り込んだ。薄茶色の固い地面に、私の涙がぽつぽつと染みを作った。
「見て、あの光! 天使の梯子だよ!」
誰かが叫んだ。
みなが空を見上げてスマホをかかげる中、私は一人座り込み、地面を見つめていた。
いつまでそうしていただろうか。
私はのろのろと立ち上がり、歩き出した。
突然すぎて、心がついていかない。
彼の浮気疑惑から、一週間とたっていない。
ふと顔を上げると、神社があった。
私は財布の中のありったけの現金を賽銭箱に入れた。最後に小銭入れをふってカラになったのを確認して、二礼二拍手でお参りをする。
「お願いです、彼を返してください!」
その間にもまた涙が溢れた。
なんどもなんどもお願いした。
彼がいたら、きっとなにかツッコミを入れて来ただろう。
だけど、彼の声はまったく聞こえない。
お願いに対しての返事も、どこからもなかった。
部屋に帰っても、彼の姿はなかった。
思わず部屋の隅々を確認した。
トイレも浴室も、冷蔵庫の中もキッチンの収納扉の中まで見て見たけど、彼の姿はなかった。
バッグに入れておいたダイヤのケースを取り出す。
見ていられなくて、棚の奥に隠すようにしまった。
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