第42話

 翌日、また知らない番号から電話があった。

 北谷さんだろうか、と思って電話に出た。

「はい、相馬です」

「相馬紗智さんですか? イチズの友達……柚城一途の友人で、樫尾亘かじおわたるといいます」

 どきっとした。


「実はあいつ、事故に遭って……」

「知ってます」

 かぶせるように言った。詳しい話なんて聞きたくなかった。


「そうですか」

 彼はそれだけを答えて、ためらうように黙った。

「お知らせくださってありがとうございます」

 早く電話を切りたかった。これ以上、彼の死をつきつけられたくなかった。

 だけど、梶尾さんは続けた。


「今日、時間ありますか? 一緒にあいつに会いに行ってくれませんか。あいつも会いたがってると思うので」

 私は迷った。

 だけど、この機会を逃したら、もう彼にお線香をあげにいくこともできないかもしれない。


「わかりました」

「じゃ、今日の午後一時に駅前で。迎えに行きますから」

 了承して、私は電話を切った。




 梶尾さんが車で迎えに来てくれると言うので、私は黒いワンピースを着て菊の花束を持って待った。

 待ち合わせののち、梶尾さんに連れて行かれたのは総合病院だった。

 持って来た菊の花束は病院には似つかわしくないので、彼の車に置かせてもらった。


「どうして病院に?」

「ここにいるからですよ」

 彼は暗い顔で答える。


 もしかして、霊安室に連れて行かれるのだろうか。

 私は怖くてうつむいた。


 彼は、だけど、どんどんと入院患者がいる病棟へ向かう。

 すれ違う人が喪服の私に驚いてじろじろ見て来る。

 黒いワンピースなんて着て来るんじゃなかった。

 そう思うけど、今さらどうしようもない。

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