第40話

 私はまた彼を見た。

 前よりも透き通って見えて、私は目をこすった。涙のせいかと思ったが、やっぱり透明度が上がっている気がする。


「あなたの姿、薄くなってない?」

「あれ?」

 彼は立ち上がり、自分を見る。


「そうかも」

 彼は困ったように私を見た。

「心残りだったプロポーズができたから……かな」

「そんな!」

 私は彼の手をつかもうとした。でも、彼の手をつかめず通りぬける。


「嫌、やめて、お願い、成仏しないで」

「最初は成仏させたがってたのに」

 彼は苦笑する。

 私はなんども彼の体に手を伸ばす。だけど腕も肩も、なにもかもすりぬけてしまう。

 彼も手を伸ばしてくれる。でもやはり私を通りぬけた。


「俺もそばにいたい。だけど、なんだか無理そうだ」

 彼の体が少し浮き上がった。


 空の雲間から太陽が顔を覗かせ、光の筋が彼に向かって伸びて来た。

 彼はまぶしそうにその光を見た。


「嘘よ、やめて、行かないで!」

「ちゃんと手続きして、遺産を受け取ってね」

 光芒こうぼうが増え、明るさが増した。


「お金なんていらない!」

「ダメだよ、俺の最期の愛だから」


「そんなこと言わないで!」

 最期だなんて、そんなこと。


「なんとなく四九日はいられると思ったのになあ」

 彼の体がさらに浮き上がる。


 立ち上がって必死に手をつかもうとする。彼もまた手を伸ばす。

 彼の足が先に浮き上がる。逆立ちするような姿勢で、彼はずっと私に手を伸ばす。

 届きそうで届かない指先は、徐々に私から離れていく。

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