第6話

「だけど、声も出ないくらい痛かったんじゃないか?」

「大丈夫です」

 言われて、私は顔を赤くした。まさか見とれてたなんて言えない。


「服が汚れてしまったね。弁償させてほしい」

「そんなの、いいです」

「弁償してもらいなよ」

 にやにやしながら友達が言う。


「あ、ここはおごりですよね」

 とんでもない便乗の仕方をしてきた、と唖然と彼女を見る。


「もちろん、出させてもらうよ」

「じゃ、あとは彼女のことよろしくお願いします」

「なに言ってるの!」


 彼女は私の耳に手を当てて囁いた。

「イケメンだよ、チャンスじゃん」

「はあ!?」

「じゃ、私はこれで」

 にやにやと笑いながら去る彼女に、彼もまた戸惑った。


「俺のせいで、お友達は怒っちゃった?」

「そういうんじゃないから大丈夫です」

 それをきっかけに私たちは連絡先を交換し、付き合うことになったのだった。


***


 私はうんざりとため息を吐いた。

 あのとき、おごってもらって、終わりにすればよかった。


 アパートに着くと、玄関のカギをあけてから傘の水滴を払った。足元はすっかり濡れていて、早くお風呂に入りたかった。

 肩を落として自宅の玄関扉を開けると、見知った足元が見えた。


 え?

 私は驚いて顔を上げる。

 そこには、愛しい人がいた。


「カズ、なんでここに?」

 合鍵は渡していないのに。

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