第7話

「紗智、俺が見えるの?」

「何言ってるの?」

「紗智、愛してる!」

 彼は勢いよく抱き着いて来た。


「やめてよ!」

 私はとっさにおなかをかばって彼の腕を逃れようとする。

 が、彼はするりと私を通り抜けた。


「え?」

 振り返ると、絶望を浮かべた彼がいた。

 よく見ると、彼は半分、透けて見えた。


「ええ?」

 私は声を上げた。

 彼は悲しそうな、恥ずかしそうな顔をしてそこに佇んでいる。何回見ても向こう側が透けていた。


「ええええええ!?」

 アパートの狭い玄関に、私の驚きが響き渡った。




 私は狭いダイニングで、テーブルにお茶を二つ置いた。

 向かい合って座った彼はゆのみを手に取ろうとして、なんどもスカッ、スカッと空振りしている。

 やがて、あきらめて手を引っ込めた。


「これ、どういうことなの?」

 私がたずねると、彼はしょんぼりと肩を縮めた。


「俺、死んで幽霊になっちゃったみたいで」

「幽霊……」

 非現実的な言葉に、私は顔をしかめた。

 嘘だ、と言いたいところだが、実際に目の前にいるのを見ると、否定できない。


「なんで?」

「事故だよ。ボール……」

 言いかけて、うつむく。


「ボールペンを落としてさ。拾おうとして、車に轢かれた。幽霊になって、俺の体が血まみれになるのを見た。もうダメだ、ってすぐにわかった」

 私は唖然とした。

 ドジなのは知っていた。知り合ったきっかけも彼のドジだ。だけど。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る