「いつまでたっても籍を入れてくれないから、探偵を使って調べたの。そしたら、あなたと浮気してるってわかったの！　私のほうが先に婚約してたのよ！」

「まさか……カズミチって、柚城一途ですか？」

「そうに決まってるじゃない！」

「嘘……」

「嘘じゃないわよ！　なんで私があんたのことわかったと思うの？　写真だってあるんだから！」

　彼女はバッグから写真を取り出す。

　彼の顔ははっきり映っていなかったが、私と腕を組んで歩いているところだった。私のアパートに入っていく写真もあるし、彼のマンションに入っていく写真もある。

「ほかにもあるわよ。彼、あなたと逢引きするためにわざわざ別でマンションを借りてたのよ。ありえないわ！」

「そんなことって……」

　ある意味、辻褄が合うような気がしてしまった。

　彼が雑誌の通りに御曹司なら、高級マンションに住んでいるはずだ。

だけど私が彼の住まいとして連れて行かれたのは、よくある普通のマンションだった。

「今度、正式に弁護士を通して慰謝料を請求するから！」

　言いたいだけ言って、彼女は立ち去った。

　私はただ呆然と、その場に立ち尽くしていた。

　どれくらいそうしていただろう。

　スマホの着信があって、ハッと我に返った。

　着いたよ。

　彼からの短いメッセージだった。

「どうしよう……」

　会って確かめるべきだ。

　そうするべきなのはわかっている。

　だけど、勇気が出なかった。

　話は、このことだったのだろうか。

　婚約者が妊娠したんだ。だから別れてほしい。

　彼はそう言うつもりだったのだろうか。

　彼は子供がほしそうだった。

　子供ができれば、誰でも良かったのだろうか。

　私だって今、九九パーセントの確率で、きっとそうなのに。

　でも、とお腹をなでる。

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