第3話

 彼の甘いマスクに女性はメロメロ! とかなんとか煽り文句が載っている。

 煽りのセンスが古い、と頭の奥でぼんやりと思った。

 御曹司。

 そんなこと、今まで彼から一言たりとも言われたことはなかった。


「どうしたの? 大丈夫?」

「あ、うん」

 同僚に話しかけられて、我に返った。


「今日は用事があるから、お先に失礼します」

 そう言ってロッカールームを出た。

 エレベーターに乗って、さきほどの雑誌のことを考える。

 どう見ても彼だったし、名前も同じだ。


 もしかして。

 私はようやく思い至った。

 今日はプロポーズじゃなくてこの話だったのかな。


 そうして、なんとなくホッとした。

 秘密を抱えて私を騙そうとしたわけじゃないんだ。きっとそうだ。

 だったら、子供ができたと言っても受け入れてくれる……よね?




 不安を抱えたまま会社を出たときだった。

 一人の女性に呼び止められた。

「相馬紗智さんですね?」

「そう……ですけど」

 私は戸惑いながら彼女を見た。


 彼女はお腹が大きくて、妊娠しているようだった。ふんわりした服を着て、険しい顔で私をにらむ。その目にあるのははっきりした憎悪と敵意。

 どうして、と動揺する私に彼女は言う。


「彼と別れて」

「は?」

 私は思わず聞き返した。


「カズミチはこの子の父親なの」

 膨らんだお腹を撫でながら、彼女は言った。

 私は絶句して彼女を見た。

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