【其の五  余白】





「今日は皆さんに新しいクラスメイトを紹介します」


十分程前から騒々しかった教室で始まった朝の会で、

静かにさせる事を諦めた担任がそう告げた。

転校生が来るという情報を事前に掴んでいた生徒が自慢気に騒がしくなり、

そこへ転校生の性別を巡る論争が加わって騒音は勢いを増して教室に収まりきらなくなっていった。



「隣の教室まで聞こえていますよ。静かにしなさい」



おそらく転校生と廊下で待っていたであろう学年主任の先生が教壇近くの入口から半身を覗かせてそう言うと、

先程までの喧騒が嘘かのように教室内は静まり返った。

生徒間で〝鬼〟と恐れを持って呼ばれている先生の一喝は、

絶大な効果を持っているようだ。

静かになった事を確認してから呼び掛けた担任の声に反応して教室に入ってきたのは全く予想もしていなかった人物。

そうであったらいいなと思った事はあったが、まさか本当にそうなるとは。


「初めまして、城崎尚しろさき なおです。つい最近隣町から引っ越してきました。よろしくお願いします」


転校生の名前は城崎尚。

あの日、ガラクタ山の頂上で出会った人物だ。

その眉目秀麗な容姿に、クラスメイトは男女で真逆の反応を見せた。

落胆と歓喜と。

その二つに彩られた教室は先刻の騒々しさを取り戻して、

再度顔を覗かせた学年主任によって既視感のある静まり方を見せた。


静まってすぐ。

城崎君が席に着くという段になって一部の生徒から嫉妬を含んだ視線が僕に集まる。

転校生が来るという話が出てから、

僕の席の隣にある空席に座るというのは分かっていただろうに。

今更になってその視線を向けられるとは予想だにしなかった。

これで城崎君と知り合いだという情報も加わるとどんな反応をされるのだろうかとぼんやり考えながら、担任に促されて近付いてくる城崎君を眺めた。


「あれ?葉月君?久し振り。この学校だったんだね」


転校生をクラスに馴染ませる好機だと、

担任がこれみよがしに城崎君との関係を拾い上げた。


「葉月君とはお友達?」

「はい。前に街中で会ってから何度か遊ぶ仲です」


ガラクタ山で出会ったというのは故意に伏せてくれたんだろう。

それにしても、知り合いと思っていたのにいつの間にか友達認定されていた。

嬉しい誤算ではあるが出来ればここで言うのは止めて欲しい。

嫉妬の色が先にも増して向けられている。

城崎君とクラスメイトになれた喜びでそれを誤魔化して、

厄介事が増えそうなこれからの学校生活に蓋をした。







「起立。礼。さようなら」


城崎君と会話するのに必死だったからか、

この日は懸念していた女子生徒からのやっかみは無く、

いつもと変わらない学校生活を過ごして終業の時間を迎えた。


───それからひと月


城崎君との何気ない会話と女子生徒からの妬みで心象を乱されながら学校生活を送っていると、

大きく変わる事のないと思っていた日常に変化が見られた。

梶田君が揶揄う以外の目的で何度も近付いて来て、以前より距離が近くなった。

気のせいでないとすれば、おそらく友達と認識されている。

直接聞いたわけではなく確たるものではないが、

城崎君へ間接的に近付こうとしているのか、女子生徒に人気のある城崎君を男子生徒の中で孤立させようと画策しているのか。

そのどちらかが急激な変化の理由だと思っている。


時折混じるやっかみの念からおそらく後者ではないかと思っているが真相は分からない。

一方的に友達と思われているのはいいのだけれど、

家の方向が一緒だと知ってから常葉君と二人の帰り道に乱入してくるようになったのは承服出来ない。

不幸中の幸いと言えるのは、それが毎日では無い事だろうか。

初めこそ笑顔で接していた常葉君も、

回数を重ねる毎に嫌悪感を言葉の端々に乗せるようになり、

今ではあからさまに口数が減っている。

友達の作り方を知らない僕が縁の切り方を知っているはずもなく、

何も出来ずに焦燥と憂鬱を溜め込んでいくだけだった。






「なあ葉月。良い事考えたぞ」


何一つ良い事など無さそうな様子で、

授業間の短い休み時間に梶田君がそう話し掛けてきた。


「明日満月だろう?それをダシにして城崎の野郎を夜中に呼び出すんだ。そこで脅かして、そのダサい姿をクラス中に広めてやるんだ。そしたらきっと。あのいけ好かない顔もちょっとは面白くなるだろ。あ、誘うのはお前な。時間と集合場所は前と同じだ。サボるなよ!」


一方的にそう告げて教室の隅の男子グループに混じりに行った梶田君は、

城崎君が断る可能性など微塵も考慮していない様子だった。

とはいえ、どのみち常葉君と行こうと思っていたところに二人増えるくらい問題はない。

梶田君抜きが一番好ましい形ではあるが、

きっと言わなくても月見下公園で待ち構えているだろうから随員から外す事は出来ない。


それに、おそらくだが梶田君の望む結果にはならないんじゃないかと思っている。

常葉君に似た雰囲気を持つ城崎君が暗転しただけのガラクタ山で恐れ戦いている姿が想像出来ないからだ。

まあひとまず、

どう転ぶかは分からないが声を掛ける順番としては常葉君からだろうか。

確約をしたわけではなくとも、

親友と言ってくれた上に一緒に行く意思を見せてくれた常葉君にはまず断りを入れておきたかった。




「城崎君?この前言っていた転校生の事かい?」


茜色が落ちるのが随分早くなってきた放課後。

日直の仕事を他の生徒に押し付けようとしているところを担任に見つかった梶田君を置いて、常葉君と二人で帰路に着いた。

二人で帰るのは久し振りかもしれない。

少し前までは当たり前だった事が、今では掛け替えない事のように嬉しく思える。


「そういえば、何度かガラクタ山で会った事があるんだっけ?きっと話せば良い返事が貰えるんじゃないかな」


常葉君にそう言われると本当にそうなりそうな気がする。

それ程、理屈抜きの全幅の信頼を置いていた。

これで常葉君も一緒に来てくれれば、梶田君が一緒であってもきっと楽しい月見が出来る。


「あ、その事なんだけど。ごめんよ葉月君。親の許可が下りなくてね」


何となくだが、この言葉は嘘なんじゃないかと感じた。

それでも、来られないという部分に関しては嘘じゃないんだろうなという事が理解出来る。

月見に行く楽しみが半分以上減ったというのに胸中には少しの安堵が広がっていた。

本心では一緒に行きたくなかったと、そんな友情の欠片も無い考えがあったわけではない。



日数を掛けて薄まりつつあった舟木君の姿が、

記憶の中で一瞬常葉君の姿に入れ替わったのだ。



好意など微塵も持っていなかったクラスメイトが消えただけでもあれだけ心象を乱されたんだ。

唯一の親友である常葉君が同じ目に合うなど、想像すらしたくない。

だがもし、梶田君が舟木君と同じように姿を消したら?

そんな非人道的な考えが名案だと思える程、気付かない内に常葉君に心酔していた。道徳的でない考えを否定するのに必死で、自分では把握出来ていなかったけれど。






「今晩ガラクタ山に?いいよ。両親共に放任主義だから、怒られるどころか気付かれもしないと思う」


緊張からかあまり眠れずに、

いつもより少し早く登校した学校で城崎君を誘うと、思いの外簡単に了承の意を貰えた。

なんで城崎君はこんなにもしっかりしているのだろうかといつも思っていたが、

それはおそらく、親が放任主義ゆえなんだろう。

きっと何でも自分でしてきたんだと思う。

早くに登校してきて自分の机を綺麗に拭いている姿は、

明確な理由など持ち合わせていなくとも同い年とは思えない程自立して見える。


「ああ、これ?前の学校の時もあったんだけど、案の定こっちでもだったね。葉月君以外の男子生徒がやったと思うんだけど、机に嫌がらせが書かれててさ。大人に頼るのも面倒だから、こうして毎朝綺麗にしてるんだよ」


そう言ってころころと笑う城崎君は、

隠れて行われている卑劣な行為を本当に気にしていない様子だった。

落書きをしているのは、

城崎君をあからさまに邪険にしている五~六人の男子グループだと思う。

そのグループのリーダーは梶田君。

元々舟木君がリーダーだったが、

あの日以来すげ変わるようにその構図になっている。

以前から薄っすらと思っていたが、

今回の事含め、梶田君が居て良い影響を得ている人は殆ど居ないんじゃないだろうか。

僕が周囲に良い影響を与えているかというとそんな自負があるわけではないが、

少なくとも梶田君のように悪い影響は振り撒いていないと思う。




害悪しかないのなら、舟木君と同じ目に、、、。




心が重く暗いものでかげる。

非人道的だと思っていた考えも、

明確な理由を持ったからか倫理的なものだとさえ認識してしまえた。

親友のみならず、友達だと言ってくれた城崎君まで害する梶田君は、

今まで一クラスメイトとしてしか認識していなかったのに、明確に、深く。

好ましくない人物として心に刻み込まれてしまった。

ゲーム的な考えをするなら、この時をもって〝倒すべき敵〟になったと言えるだろう。


舟木君が消えた原理も分からないのにたった一度の経験でガラクタ山を頼るのは賭けのようにも思えるが、

どうにも梶田君を差し置いて僕や城崎君がガラクタ山に害される気がしなかった。

その無意識の自負は、

好意を持っている相手は害さないだろうというガラクタ山への根拠のない信頼感から来るものだったのかもしれない。

それでも一抹の不安はあったが、

常葉君が消えるという僕の中での最悪の結末は既に避けられている。

となれば、もうどんな結末を迎えてもいいかなと思えていた。


沸々と湧いていた久方振りの怒りという感情のせいか、

考え方が少し投げやりになっている。

机を拭く城崎君を手伝いながら、荒くなった思考を他愛ない会話で鎮めた。

一緒に梶田君も月見山に来る事は伝えたが、

梶田君が消える可能性については伝えていない。

それを知った城崎君に止められたら、きっと行くのを中止してしまうだろうから。

自己犠牲の精神などという高尚なものではないけれど、

気分はさながら悪者に孤軍奮闘するヒーローのようだ。








時刻は十九時半。

引っ越してから一度もガラクタ山に行っておらず道が分からないという城崎君を案内する為に、近くのコンビニへ来ていた。

父親が帰って来るのが遅いという事もあり、

自分も見たいと着いて来ようとする母親を止めるのに苦労して想定より時間を食ってしまった。

待ち合わせ場所に城崎君の姿がまだ無いのが救いだ。


時間を確認して星空を眺めてを繰り返して何度目かの後。

ジャージ姿の城崎君が現れた。

野暮ったいジャージ姿ですら様になってしまうのだから、

女子生徒達からあれだけ熱視線を向けられるのも頷ける。

男色の気はなく、それ以上の感想は湧き上がってこないが。


「遅くなってごめん。珍しく父さんが早く帰って来ててさ。説得するのに時間が掛かったんだ」


珍しく早く帰って来たのであれば、

久し振りの親子の時間を邪魔してしまったのではないだろうか。

連絡先も家も知らない状態で突然来なくなるのは困るけれど、

なんだか少し申し訳ない気持ちになった。


「気にしなくて大丈夫だよ。早く帰って来たとは言っても、晩御飯は食べてきたみたいだったし、すぐに自室に籠って仕事に没頭してたからさ。そんな事より。早く行こう。あんまり待たせて拗ねた梶田君の嫌がらせがこれ以上悪化するのも面倒だ」


予想外だった。

城崎君は、誰がしたか分かった上で放置していたみたいだ。


「転校前も同じ事があったけど、落書きされても消せば済む話だからね。それに、、」


斜め前を歩いていた城崎君の言葉は、そこで区切られた。

少しの間の後に小さい声で零れた〝いざとなればどうとでも出来る〟という言葉は、僕に聞かせようとしたものではなく、城崎君の本心が零れ落ちたものだと思う。

初めの文脈だけ読み取れば優しさが滲み出たものであるのに、

最後の一言によって全てが不穏に塗り替えられた。

顔は見えていないのに後ろ姿だけで表情が読み取れて、月見下公園に着くまでの間、僕から話し掛ける事は出来なかった。






「遅かったな」


梶田君は意外に真面目なのかもしれない。

前回より少し早い時間に着いたにも関わらず、既に待ち構えていた。

だが、先に待っていたのは梶田君だけでなく他にもクラスメイトが二名。

城崎君を敵対視しているグループの、名前は確か、、、。

どちらかが降谷君だっただろうか。

直接関わった事のある半数のクラスメイトの名前しか覚えておらず、

どうにも思い出せなかった。


「降谷君に佐藤君か。話すのは確か初めましてだね」


城崎君は、たったのひと月で名前を憶えていたみたいだ。

関わっている様子なんてなかった敵対グループですらこれだけすらりと名前が出てくるなんて。

きっとクラスメイト全員の名前を憶えているんだと思う。

頭に浮かんだ〝何かに使う為に敢えて敵対グループの名前だけ憶えている〟という疑念は、

幾ら何でも考え過ぎというものだろうと否定した。


以前と違って慣れた様子で進む梶田君を先頭に、

僕と城崎君、佐藤君と降谷君の2人ずつが横並びで狭い階段を着いて行く。

よく見ると落ち着いた様子なのは二回目の梶田君だけではなく、

後ろにいる二人もだった。

斯くいう僕自身も身を竦めていないのは、以前よりも増した人数のおかげかもしれない。


城崎君は梶田君の思惑と反して楽しそうな表情を浮かべている。

夜に頂上へ登った事があるのかは分からないけど、

どちらにせよ、普段からガラクタ山に登る同じモノ好きとして、

気分が高揚する気持ちは分からないでもない。

まあ、前回は恐怖で身を竦めてしまったけど。

10分にも満たない時間を経て、全員がほぼ同時に頂上へと到着した。

僕だけが、また以前と同じ人物と会えるんじゃないかという淡い期待を抱きながら。








「葉月君、これあげるよ」


思っていたよりもかなり早いタイミングだったが、

予想通り前回と同様記憶が途切れた。

頂上に居た謎の人物を見かける事もなく、

辿り着いてすぐ、梶田君の背中を見て以降の記憶が無い。

場所は山の麓に程近い階段。

城崎君から渡されたのは、

案の定というべきか梶田君似のぬいぐるみだった。

願っていた事であるのに、いや、願っていた事だからこそ動揺が隠せない。

周囲を見回しても、あるのは自分を含めて四人の姿だけ。

確認の為に梶田君の場所を尋ねたくなる気持ちをぐっと堪えた。

どのみち、明日登校すれば分かるだろう。

何故城崎君からぬいぐるみを渡されたのかは疑問が残るけれど。


「あれ?てっきりぬいぐるみが好きなんだと思ってた。休みの日にわざわざ頂上まで登るくらいだから」


その条件であれば城崎君も当て嵌まると思うけど。


「僕は違うよ。一度たまたま頂上まで登った事があったんだけど、そこで不思議な体験をしてから、どこか郷愁を感じるようになったんだ。今日、ほんの少しその不思議の中身が分かったよ」


頂上での記憶は抜けているのに、どうして中身が分かったんだろうか。

道中には、何も不思議な事はなかったはず。


「あれ?覚えてない?そっか、、、」


この〝覚えてない〟というのが梶田君の事を指すのか途切れた記憶の事を指すのか。

はたまたそのどちらもを指すのか。

遠回しに聞いてみると〝秘密だよ〟とお茶を濁されてしまった。


下山中は特に何事もなく、

城崎君を待ち合わせ場所だったコンビニまで送って帰路に着いた。

自分の部屋に戻って、窓辺に並べた二つのぬいぐるみを見やる。

その背中には、何か複雑な感情が含まれている気がした。

以前舟木君のぬいぐるみから感情が見られた気がした時はぬいぐるみに感情なんてあるはずないと一笑に付していたけど、

今はどうにもそう切って捨てられない。

この二つは予想が間違いなければ、姿こそ変われど舟木君と梶田君そのものだ。

夜のみ、

もしくは満月の夜にのみガラクタ山の頂上に居るあの人物によるものだと思うが、

どうやったのかなんて勿論分からず、あくまで予想の域を出ない。

それに加えてもう一つ。

可能性だけの空想だが〝もしかすると〟と思う事があった。

一度目も二度目も、僕が嫌悪感を覚える人物がぬいぐるみへと姿を変えた。

今日一緒に行った中で、城崎君は友達で他の二人は名前がうろ覚えな程関わりがなかった。



もしかすると、、、。



二人が姿を変えた事に、間接的、直接的。

どちらかで僕自身が関わっているのかもしれない。

城崎君も可能性の一つとして考えてみたけど、

それだと関係のない舟木君の消失の説明がつかない。


いや。

以前は頂上で確認出来た人物を、城崎君が同行した今日は確認出来ていない。


一度にぬいぐるみに変えられるのは一人までで、

あの時はたまたま一番最初に頂上へ辿り着いた舟木君が選ばれただけだと考えれば辻褄が合う、、?

そうなると他の二人の可能性も、、、、。

答えの出ない机上の空論を頭の中でだけ繰り広げ、いつの間にか訪れた睡魔に身を委ねた。





結局結論の出る事の無いまま不明瞭な全能感を持って迎えた朝。

席替えもしていないのに、僕の席は一つ前に移動していた。

個性など何もなく、

整然と並んだ机と椅子達の中から自分の席を見つけ出せたのは、置き勉していた教科書のおかげだ。

全ての裏表紙に書かれた〝葉月そう〟の文字が、

ここが自分の席だという事を物語っている。

今日も早く登校してきている城崎君の座っている席を見るに、

繰り上げの形で移動したのは僕までみたいだ。

城崎君と隣でなくなってしまったが距離は近いままなので会話をする程度なら支障は無い。


クラスメイトがまた一人消えて、その事実を自分だけ。

もしかするともう一人だけしか覚えていないというのに、心に以前のような動揺は無かった。

あるのは、不明瞭な全能感に背中を押された達成感。

密かに思い描いていた梶田君の消失という願いを叶えた僕の心情は、

ヒーローのそれとはかけ離れた黒く濁ったものだった。


今まで嫌いな人物が居ても、

何も持たない小学生が数の暴力に対抗が出来るわけもなくなされるがままだったけれど、これからは何をされてもどうとでもなる。

存在を消してしまえば相手は何も出来なくなるのだから。

自分が二人を消失させた確たる証拠など無い事をすっかり忘れてしまった僕は、

常人には至る事の出来ない超越者になった気分で日々を過ごした。

自信なんて何も無い虚無然としていた今までの姿は見る影もなく自信に満ち溢れた新しい世界は、目が眩む程明るい。


その反面心には黒いものが渦巻いていたが、

そんな事へは目もくれずに作り変えられた世界を楽しんだ。

疎んで見ていた城崎君への嫌がらせも、

ひと月に一度一掃すればいいかと思うとどうでも良くなったし、

千足さんから向けられていた恋慕の情を含んだ視線に気付く事も出来た。

だからといって何かしたわけではないけど、折を見て自分から話し掛けてみるのも面白いかもしれない。

舟木君が消失して、その余白を埋めるように城崎君が転校してきて。

そして梶田君が消えてまた余白が出来た。

埋まる予定が未定だったその余白は、

顔を上げた僕が得たもの達を含んで、

隙間なく埋まろうとしていた。

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