第3話
一人になってしまった。ミラさんはどこへ行ったのだろう。さっきまでは緊張していて部屋の様子をよく見れていなかったが、この部屋にはドアがなく窓もない。何だか急に孤独感を感じる。この部屋に閉じ込められてしまったみたいだと思う。考える余裕が出てくるとやはりこの状況のおかしさが、違和感が、大きくなっていく。まだしなければならないことの詳細は聞いていないが人に寄り添い、導く事をする人が記憶がない、自分がないなんてことがあるだろうか。不安な気持ちが抑えられない。感情が増大していく。さっきはクッキーだと答えたが、目の前のこれも本当にクッキーである保証はない。顔を近づけてみる。匂いはする。生地の匂い。チョコの匂い。飲み物は。お茶には詳しくないが何らかの紅茶だと思う。少し落ち着く。僕の中にある知識の量と経験の量のちぐはぐさが僕をこうまでも不安にさせるのだろうか。部屋には僕の目の前にある机以外に花瓶が置かれている机と小さな箪笥が置かれている。僕は席を立って花瓶の方へ近づく。
「花の香りだ…」
当たり前だ。当たり前のことなのになぜこんなにも気になるのか。そうして何度も嗅いでいると鼻が慣れてきたのか匂いを感じにくくなる。部屋を見回す。まだミラさんは帰って来ない。今している行動も十分におかしいと思うが僕はこのまま探索を続けることが正しいように感じられた。次は箪笥の引き出しを見る。何も入っていない。この部屋には物もあまりないし、生活感がない。見るものがなくなった僕は次に空間と空間の移動方法が気になった。
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