第2話 乱された平和と不思議な少年
振り返ると,全身紫ずくめの男が立っていた。
長身。細目。
肩にはリスを乗せている。
多美はそっと,わたしの背に隠れた。
「久しぶりだね。タミちゃん」
「⁉︎」
名前を呼ばれ,多美は体を震わせた。
「なんでこの子の名前を知ってるのですか?」
落ち着かないと!落ち着かないと!
「俺はマック。こっちはリスのスリ。よろしくね」
マック。そう言われると,近くのファーストフード店のことを思いつくが,別のことみたいだ。
リスはススンと鼻を鳴らしてマックの肩によりかかる。
うわぁ。目つきが…
ペットは飼い主に似るって,ほんとなんだ…
「わたしたちに,何かようですか?」
そう聞くと,マックはニヤリと笑った。
「君に用はないよ。星野宮叶奈」
「なんでっ。わたしの名前っ」
この人に名前,教えてないよ?
「用があるのは,タミちゃんに…だよ」
あれ?今気づいた。
彼が呼ぶ『タミ』とわたしが呼ぶ『多美』。何か違うと思う…
彼の呼ぶ『タミ』は,少し硬くて,片仮名感がある。
逆にわたしの呼ぶ『多美』は,漢字の柔らかさがある。
「あなたは…なぜ多美のことをタミと片仮名のように呼ぶのですか?」
そう聞くと,マックはクククッと笑った。
「それはお前さんには関係ない」
そういうと,マックは多美をぐぐぐっと自分の方へ引き寄せた。
「多美!」
「姉ちゃんっ!」
手を伸ばしても,届かない!
マックは多美を抑えたまま,胸ポケットからりんごのブローチを取り出した。
それを多美に当てる。
「うわぁっ!」
そこから煙が噴き出す。マックは多美から手を離し,じっとその場を見つめている。
わたしは,驚きで動けない。
やがて,煙が引いていく。
だが,そこにいたのは−
「多…美…?」
緑色の髪には,黄緑と黄色のメッシュ。赤と青の帽子。緑,黒,白の服。青い上着の袖は白い。青いズボンから伸びる足は,右は膝の辺りまで緑の靴下。そこから赤い靴。左は,膝まで赤。そこからくるぶし辺りまで黄色。そこからは青い靴。
全体で見ると珍しい格好。
多美がいない。それに,あの子のりんごのブローチ。さっきマックが多美につけてたのだ…
待って…じゃあ…本当に…
「この子はウタ・タミ。もうお前さんの妹じゃない」
絶望的な言葉だ。多美…いいや。タミは気を失ってて…
「それじゃあね」
マックはそう言ってタミを抱えたまま消えてしまった。
「あ…多美…やだ…やだ…タミ…あぁぁぁぁぁぁっ!」
わたしは絶叫した。
だがその時
「あぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!リュカーーーーーーっ!」
わたしに負けないくらいの絶叫が聞こえてきた。
「この声…」
誰かを探してる?
わたしは声を頼りに歩き始めた。
しばらく歩くと,メガネをかけた男の子がいることに気づいた。
相手もこちらに気づいて走り寄ってきた。
「髪が長い男子知らないか⁉︎」
やっぱりだ。誰かを探してる。
「わたしも…緑色の髪の子を探してて…」
そういうと,男の子も驚いたような顔をした。
しばらく話した後。
マキと名乗った男の子が,わたしと同じようなことだと分かった。
「やっぱり…君の親友のリュカさんも,リュカ・アンダートって聞き覚えのない名前で呼ばれてたんだ…」
「うん…」
「マキ…一緒に…探そう…」
「ああ…」
目的が同じなら,きっとできる。
わたしはそう思った。
マキの目も,わたしと同じような光を持っていた。
君の記憶がなくっても✴︎1 Veroki-Kika @Veroki-Kika
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