第17話 前日
文化祭、前日。
久しぶりに軽音楽部の部室へいく。
もう逃げてはいられない。
「中川さん!良かった来てくれた!」
部屋に入ると真っ先にまるちゃんが声をかけてくれて自然に笑顔になれた。
「逃げたかと思った」
後藤くんがぼそっと聞こえるように言ってくれたのも嬉しかった。またそんな言い方する、と渡瀬先輩がたしなめる。
「芽実ちゃーん!待ってたよお!」
大きく手を振る奈良の方向を向くと隣に藤澤くんがいたが、彼とは目を合わせないように「ごめんね」と答えた。
「芽実ちゃん」
「桜木先輩、しばらく来なくて。すみませんでした」
「ううん。練習してくれてたんでしょ?ありがとう。明日よろしくね」
「はい」
一曲目から通し練習。
何度も曲に入り込んで、桜木先輩と渡瀬先輩を思い浮かべてもちゃんと歌えるようになった。
今日、軽音のみんなにちゃんと認めてもらうんだ。
私が歌う3曲目まで全て終わって、部長の桜木先輩がみんなを集めた。
隣に渡瀬先輩を置いて話し始める。
「明日で私たちは卒部します。今まで本当にありがとう」
後輩たちが真剣に部長を見つめている。
「本番はみんなの最っ高にでっかい音で、私たちを送ってください!お願いします!」
3年生の2人は勢いよく頭を下げた。
「ぜったい泣かしますから!」「頑張ります」「楽しみましょう!」「先輩ミスんないでくださいよー?!」と盛り上がったあと、じゃあまたあした。
と解散した。
きょうも夕日が大きいなぁとぼんやり思いながら校門を出るところで奈良が後ろから私を呼んだ。
足を止めて振り返ると遠くから走って来ていたので追いつくのを待った。
「どうしたの?」
「帰るの、はや……ありがと……はぁ」
「なにが?」
「ノート。夕綺に返してくれてありがとう」
「お礼言われることじゃないよ。盗んでたわけだし。ちゃんと謝れてないし……」
「拾ってくれたのが芽実ちゃんで良かったよ。夕綺もそう思ってる」
「そんなことない。忘れ物だ、ってすぐ返すべきだった」
奈良が大きく首を振る。
息が整って前屈みだった身体を起こした。
「明日3曲目が終わっても、音楽室から出ないでね」
「え?あぁ、うん。先輩たちにみんなでなにかするの?仮入部の私が居てもいいのかな?」
「いて欲しいの!んじゃ、よろしくね!ばいばーい!」
とまた戻って行った。
何だろうと思いながらしばらく走る後ろ姿を見送った。
まだ楽器の音がする校舎を背に、お花とか用意するべきかなぁと悩みながら校門を出た。
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