第10話 絞る
桜木先輩にバレている。
ハッキリとは分かっていなさそうだけどあの時、初めて音楽室で先輩と会ったときに手にしていた“そら”のノートを見て気づいたのだろう。
「でもその感じだと悪意には取られて無さそうだね」
スマホ越しの七星の声。
「わかんないよ。詮索するなって警告かも。軽音の人たちのことすごく大事に思ってそうだったし」
自分が桜木先輩を背負うことを心苦しく思っている、という人間性みたいなものと引き換えに自分もあなたのことをそう思っている、と教えてくれた感じがした。
「“そら”に近づけたのかな?どっちなんだろ」
信頼関係が少しだけでもできてしまったことで“誰か”を探る行動がやりにくくなる。
分からないけどこの先、桜木先輩を悲しまるような行動をしようと思った所で躊躇してしまうかもしれない。
「でも。ってことはよ?“そら”が桜木先輩だって可能性はほとんどないってことなったよね」
そう、更に『一番大切なのは軽音部の仲間だけどね』といった。
自分以外の軽音部の仲間のものだと確定を出してくれたことになるはず。
「多分ね。話してる内容からもあの文体はこの人じゃないなって感じもした」
「彼氏の渡瀬先輩か、まるちゃんって人か、後藤か奈良か藤澤ってことか」
「そうだと思う。ちゃんと活動してるのもそのメンバーだけだし」
「ふーん。だいぶ絞れたそうな気もするけど難航しそうだね」
「とりあえず左利きを確認しつつそれぞれとちゃんと話してみようかと思ってる」
「あそうそう、思い出したんだけど藤澤左利きだったわ。中学ん時にそんな話あいつとした気がして、この前授業中確認したらやっぱりそうだった」
「お。1マス進む、だね」
ピンクのノート、藤澤の欄に“左利き”と書き込む
とりあえず話しにくそうな後藤とまるちゃんとの距離を詰めると宣言して通話を切った。
ふう、とベットに身体を預け“そら”のノートを開く。
この人はどんな今まで曲を聴いてきて、どんな曲に心を動かされて、どんな音やことばを頭に巡らせてきたのだろう。
青や赤、白と黒、紫やピンクの空を浮かべてみたが私の頭には自分から出る音も、ことばも浮かんでこないままいつの間にか眠っていた。
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