第8話 茜空

「というわけで文化祭で歌うことになりました」


「良かったじゃん、楽器練習しなくてすんで」


「それは良かったんだけど。荷が重すぎる」


「芽実歌上手いし。いやー楽しみだね!」


「その後やる予定の曲を歌ったんだけどさ、喉閉まっちゃって全然歌えなかった。桜木先輩後悔しただろうな」


「まあまあ、まだ練習する時間あるし!ふぁいとー!」


「君、楽しんでるね。」

「そりゃーそうでしょ!」


教室でむずかる私の後ろから奈良が大きな声でやってきた。


「芽実ちゃん!歌上手いね!!めっちゃ良かったよ!本番楽しみだね!」


ちらりと藤澤くんの方も伺う。

「いいのいいの、あいつはほっといて。」


「でも申し訳ないよボーカルなんて。みんなやりたいもんじゃないの?」


「そんな事ないよ、それぞれの楽器が好きでやってるし、みんな歌いたいわけじゃない。あの曲も本当は桜木先輩がギターボーカルのはずだったんだけど、歌あんま得意じゃないみたいだしね。多分芽実ちゃんのほうがうまいよ」


あぁやめて、せめて藤澤くんのところまで聞こえないように言ってくれ。

彼は私が歌うこといいように思ってないんだよ。


「1曲だけならいじゃん。せっかくだし楽しみなよ」


私の心の声が聞こえていたかのように奈良がそう言ってくれた。ちょいちょいやる奴だ。


「全部でどのくらいするの?」

七星が尋ねた。


「軽音としては3曲かな。芽実ちゃんが歌うやつと3年の先輩それぞれが歌うやつ。七星ちゃんも練習見にきてよ。俺もかっこいいから!」


「はいはい。奈良とか藤沢くんとか、渡瀬先輩はギター?」


「んーそうだね、桜木先輩もギターする。まるちゃんはベースで後藤はドラム」


「へぇそう。まあまた奈良のかっこいい姿見に行くわ」


「「え」」


私の「え」には「!?」が、

奈良の「え」にはハートマークが付いている。

どうした七星。


「わーい待ってるねー!じゃあねー!」

と自分のクラスへと消えていった。


「奈良の扱い相当上手くなってますね」


「ふふっ、まあね」


といったあとボリュームを少し落とした。

「ってことは後藤は“そら”から一旦外してよさそうだね。ギターやってないとは限らないけど」


「そうだね、絞んないと25日までに間に合わなそう」


「とりあえず軽音って接点が無くなる前に3年にはもうちょっと突っ込んでおきたいな。昼休みに音楽室にいた他の人たちも軽音?」


「籍だけだけある幽霊部員とか関係ない友達とかだって。そっちもいったん外していいかも」


「じゃあとりあえず桜木先輩と渡瀬先輩からだね」


「どうやって“そら”だって見極める?」


「まずは左利きかどうか。あとはーんー、もう“そら”しかわかんないようなこといって反応を確かめるしか無いんじゃない?」


「そういえばさ、桜木先輩の下の名前あかねっていうの」


「うん。で?」


「“そら”のノートって空の色のこととか書いてあったじゃん?茜空っていう言葉もあるし、なんか関係ないかな?」


「うん、悪くないかも。だとしたらやっぱり桜木先輩が“そら”に一番近いかもね!」


「うし!!俄然やる気出てきた!!!きょうは思っ切り歌ってやる!!」


「褒められたいもんね」


「でへへ」


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