第9話 俺の舎弟

 春夫つっよ。



 何あれ、あの元番長が何も出来ずにのされたぞ。


 「おいおい! まさかビビってんじゃねえだろぉなあ!」


 ビビってます、勘弁してください。


 あんた噛ませキャラじゃなかったんですか?


 どうしちまったんだよ春夫。 



 春夫が、意識を失っている元番長の頭に足を乗せた。


「こいつぁなあ、この春夫が直々にボクシングを鍛えてやったんだ! それなのに、こいつも使えねえ野郎だあ!」


 春夫が元番長の胴体を蹴り上げる、元番長が仰向けにされ動かない。



「それよりも! お前だよお! ガキぃ! この春夫を怒らせたらどうなるかあ! たっぷり教えてやるぜい!」



 春夫が俺の所に向かってくる、この前みたいにはなりたくない、だが、、なんだか少し、、不快だな。



 俺はブランコから降り、春夫の前に立った。


 元番長の姿を確認する、さっきまで、俺に嬉しそうに語りかけていた元番長の姿はそこにはない、ボロボロになって動かない。



 俺は、春夫をゆっくりと睨みつけていた。


 「おお! いい面になったなあ! ガキぃ!!」



 春夫がステップを踏み、小刻みに揺れる。


 素早いジャブを放ち、強烈なストレート。


 しかし、俺には当たらない。


 変な話だが、今この瞬間だけは、スライムに感謝している。


 春夫の攻撃が続く、俺の視界の外へ外へと周り込み、確実に俺の急所を狙っている。


 ああそうか、、俺はそこの舎弟気取りの元番長に、心を許しかけていたのだな。


 人に好かれるとは、どうやらそういうものらしい。


 鼓動が高鳴り、怒りという渦の中へ、自ら沈んでいった。


 怒りの 深い 場所へ


 息を切らし汗だくになる春夫に、俺は言った。



 「春夫 今日だけは 俺が主人公を務めてやる 」


 「はぁあ!? くそっ! なんで当たらねぇえ!?」




 スライムがくれた知識の中にこんなものがあった。


「堕ちろ 第四劫だいよんこう絞殺呪術こうさつじゅじゅつ 黒蛇セルピエンテ・ネグラ



 春夫の身体に 見えない無数の蛇が 絡み付く


 足から腰へ 腰から胸へ 胸から 喉元へ


 無数のソレは 確実に 相手の意識を 奪う



「ぐピィ、、ギギギぃ、、ッッッ、、く、、、、、、」


 春夫が立ったまま白目を向いて泡を吹いている。



「戻れ 第三劫だいさんこう破邪呪文はじゃじゅもん 白蛇サフェド・サンプ



 春夫に巻き付いた ソレらが ボトボトと 落ちていく


 背後から 忍び寄る 新たなソレが 春夫の首に 噛み付いた


 春夫が息を激しく吹き返す。




「ッカ!! ハァハァハァ、、! な、何だ今のはぁ、、」



「まだだ 黒蛇セルピエンテ・ネグラ


「うっ、、ギィィ、、、ッッッ、、ぷ、、、、、、」


白蛇サフェド・サンプ


「ッダ!!、、、ッカ、、ハァハァハァ、、ぐ、っあは!」



「何か 言いたいことは あるか 春夫」


「ハァハァハァ、、ハァハァ、、ないぃ、、も、もういい!」



「そうか じゃあな」


「お、おう、、俺は、帰らせてもらう、、ハァハァハァ、、」



「いや? 待て 春夫」


「なな、なんだぁ、、」



「奪え 第一劫だいいっこう呪枷じゅげ 足枷グリレーテ・デ・ピエルナ


「なあ!??、、右足がぁあ!、、ハァ、、重い!、、ハァ、な、なにしたぁあ!」



「 解いて欲しけりゃ  徳を積め 」



 春夫は青ざめた顔をし、足を引きずりながら逃げて行った。




 俺は元番長を担いで、病院へ連れて行くことにした。


「もう二度と主人公はやらんからな、よっこらしょ」


 俺は、自分の身体の4倍はあるであろう大男を担いだ。


 元番長の腰から下が、俺の身体からはみ出てて歩きにくい。


 仕方ないのでこのまま引きずって歩いて行く事にした。



 もう、夕日が沈む。



「ッ、、あ、、兄貴、、、?」


 元番長は一度起きて、そのまま黙って俺の背中に顔を伏せた。


 俺は知らないふりをした。



 元番長の涙が、学ランに染みて少し冷たい。


「にしても、、フッ  でっかい舎弟だなおい、ハハッ」

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