第36話 王城の異変1(エクロート)


 俺(エクロート)はまたロイド王太子の名前で王都バカルに呼び戻された。


 本当はずっとキルベートにいたかったがそう言うわけにもいかないだろう。


 王城に入るとすぐにロイド王太子のもう一人の側近であるアモルから話があると部屋に引き込まれた。ロイド殿下は正式に王太子に決まった。


 「エクロートさんあなたを呼び戻したのは私なんです。実はあなたが辺境に言っている間に大変なことが起きているんです。ザイアス国王はもはや乱心しているのかもしれません。それに王太子に至っては…」


 アモルはもうどうしていいかわからないと言うふうな困惑した顔でうなだれた。


 「どういうことだ?一体何があったか順序立てて話してみろ!」


 俺はアモルの話を聞いた。


 まず、最初に驚いたのはザイアス王の一番の味方だった筆頭公爵家のヴェルティア公爵がを処刑した事だった。


 ザイアス国王は、ここ最近信頼している人間の中にも裏切り者がいると言い始めていたがまさか。


 それにごく最近側近になったデオロイという男の言う事をなんでも信じるらしい。


 このデオロイという男は魔術が使え人の考えが分かると吹聴している男で、どうやらウェントス国から流れて来た貴族らしいのだがはっきりした身元を知る者がいない。


 そもそもそんな男がなぜ国王の側近になったかと言えば、半年ほど前、国王は原因の分からない病気になった。


 身体の関節や筋肉が激しい痛みに襲われてもがき苦しむという症状に王族専門の医者も口をそろえて原因がわからないと言い、聖女の治癒魔法ももちろん試みたが一時は良くなるもののまたすぐに痛みがぶり返した。



 そんな時王都で魔術で病気を治療しているというデオロイの噂が耳に入る。


 ザイアス国王はそいつを連れてこいと言って治療にあたらせた。


 するとあんなに痛かった痛みが治ったのだ。その後も再発することもなくすっかり元気になった。


 それ以来ザイアス国王はデオロイをそばに置くようになった。


 彼が言うには呪いのようなものだったのかもしれないと言われたらしい。


 デオロイは弱っていた国王の気持ちに付け込んで自分は魔術が使えて呪いなどにも対応できるとか何とか言ったらしいと周りの貴族たちの話らしいが。


 とにかくそのデオロイがヴェルティア公爵がロイド殿下の後ろ盾になったグロギアス公爵に近づいていると言ったらしく、それを鵜呑みにしたザイアス国王は烈火のごとく怒った。


 おまけにデオロイがそれらしい手紙を国王に見せた事でザイアス国王は独断でヴェルティア公爵をすぐに処刑にし、公爵家はとり潰しになり一家は王都追放となったらしい。


 そんなことがあって今までザイアス国王に絶対服従を貫いていたルヴェン侯爵や他の貴族もザイアス国王を見限り始めているらしいのだ。


 そのせいでロイド殿下。いや今では王太子となったロイドを国王にしようという動きが活発になっているらしい。



 「それでロイド王太子は?」俺は聞いた。


 「ええ、それが問題なんですよ」


 「問題?」


 「それはもう王太子はみんなから国王になることを切望されているのですが、肝心の王太子は様子がおかしいんです」


 「どういうふうにおかしいんだ?」


 「はい、アリーシア様を追放されてミリアナ様と婚約されたわけですが…」


 「ああ、ザイアス国王は反対していたが王太子は彼女と結婚するといきまいていたよな」


 「ええ、ですがアギルの事でミリアナ様の手のものが薬を盛った事が分かって一時少しミリアナ様から距離を置かれるようになったんです。でも、エクロートさんが辺境に言っている間に今まで以上にミリアナ様に傾想されるようになって、政務もそっちのけですし騎士隊の仕事だってまるで関心がないようでとにかくミリアナ様のそばを離れないんです」


 「そんなに?一度王太子に会った方がいいな」


 「ええ、エクロートさんには王太子の最近の様子を知らせてから会ってもっらた方がいいと思って」


 「ああ、知らせてくれて良かったよ。一度王太子に会って話を聞こう」


 「はい、エクロートさんが頼みですから…」


 アモルは縋るような目で俺を見つめるとほっと息を吐いて肩を落とした。


 アモルは相当疲れているのだと思った。無理もないか。




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