第37話 王城の異変(エクロート)


 俺(エクロート)は王太子の執務室に出向いた。


 ロイド王太子は執務中にでもあるにもかかわらずミリアナ様を膝の上に乗せていた。


 「エクロートです。帰った参りましたのでご挨拶に伺いました」


 「ああ、ご苦労エクロート。それで?辺境はどうだった?」


 「あっ、はい。コホン。ロイド王太子」


 「なんだ?」


 そう言った後にも彼はミリアナ様に目を向けて微笑む。


 「仕事の話です。グロギアス公爵令嬢に退室して頂きたく「そんなことは出来ん。ミリアナは私のそばにいたいと言っているのだ!話はこのままでする。文句があるなら出て行け!」…おうたいし…どうなってるんです?」


 俺はそう呟いて絶句した。



 「エクロート。どうした。話はないのか?」


 「…はい、ですがこのような状況は他の物にも示しがつきません。王太子たるもの。いえ、次期国王となられるお方がそのようなお姿では威厳に関わります。それに騎士隊の事はいかがされていますか?アギルの様子はどうなんです?」


 「お前がいちいち口出しすることではない。どうするかは私が決める事。次期国王ならばそれくらい当たり前の事だ。それに執務が忙しい。赤翼騎士隊の事は別のものに引き継がせるつもりだ」


 「まあ、政務の事は後回しにするとして赤翼騎士隊を別のものに引き継がせるならば急いで騎士隊長を決めるべきではありませんか。そのような話私は聞いておりませんが…王太子。まだその事を誰も知っていないというのは問題ですよ」


 「うるさい!お前に言われなくても今日にでもそうするつもりだったんだ。エクロート、今から赤翼騎士隊の隊長を選任を命じる」


 「私ですか?大切な王族騎士隊ですよ。王太子自ら隊長を選んでいただいた方がいいと思いますが」



 その時ミリアナがロイドの耳元に何か言った。


 「そうか、ミリアナがそう言うなら…決めた。赤翼騎士隊の隊長はグロギアス公爵家の次男、オッズ・グロギアスに任命する。これでいいだろう。さっさと命令を伝えろ!」


 俺はこいつ頭おかしいのかと思った。


 「王太子!ですが彼は白翼騎士隊の隊長ですよ。じゃあ白翼騎士隊長はどうするんです?」


 「ああ、ミリアナどう思う?」


 ミリアナがまた耳打ちする。


 「エクロートお前がなればいい。お前は俺の側近だが頭脳明晰で剣の腕もいい。お前なら適任だ」


 ロイド王太子は満足そうにうなずく。


 「何を言ってるんです?ではあなたの護衛はどうするんです?そのほか諸々の仕事だってあるんです」


 「アモルがいるだろう?そうだ。アモルを白翼騎士隊の「いい加減にして下さい!」…では別の奴にするか」


 そこで俺はブチ切れた。


 王太子の目の前に行って大声で文句を言う。


 「王太子おかしいですよ。一体どうしたんです?前の王太子なら絶対こんないい加減な事なんかしなかった。ミリアナ様に惚れたのはいいとしてもやることはきっちりやって下さいよ」


 俺は頼むから目を覚ましてくれと願いながら…



 「俺、もうそんなのどうでもよくなっちゃって…ミリアナがいてくれれば他はどうでもいいんだ。そんな事はお前たち側近のやることだろう?俺は自分のやりたいことだけをやればいいはずだ。だって俺は王太子。そして次期国王なんだからな」



 俺は思った。この国は終わった。


 この時期、侵略した西側のジスタル国や西南のミタイン国では反乱がおこっている。


 おまけに魔樹海の向こうにあるウェントス国も虎視眈々とコルプス帝国を狙っている。


 コルプス帝国のあちこちでも天候不順や不作が続いたせいでまた食糧難が起こりあちこちの領地でも不平不満が募っていると聞いている。


 そんな中ザイアス国王はさらなる税の増加を貴族に求め、国王への信頼は落ちる一方だった。


 そこにくわえてザイアス国王の乱心とも思える行動。


 王太子の政治への全くの無関心。


 いくらザイアス国王を見限り王太子を次期国王にという声もこれではどうなることかわからない。



 いよいよ時は来たのではないかと俺は秘かに思った。






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