第35話 パシュの治療


 魔樹海の入り口辺りまで馬で急ぐ。さっきの冒険者が案内してくれて魔樹海から少し離れた小さな小屋にパシュはいた。


 すぐにパシュの具合を見るために彼のそばにしゃがんだ。


 血まみれになった上着を広げて傷を見る。牙でやられたと言われていたが腹に牙を突き立てられたようだ。


 「大丈夫ですか?うっ、ひどい出血。とにかく傷口を塞いで」


 私は意識のないパシュの上に手をかざして祈りを込める。


 (神様どうか力をお貸しください。パシュの怪我を治せますように弱った身体を癒せますように)


 淡い光がパシュを包み込む。傷口に光の帯が注ぎこまれると見る見るうちに傷口がふさがって行く。


 そして今度は回復魔法を施す。金色の光の粒子がパシュの周りを包み込んだ。


 血の気が引いたパシュの顔色がほんのり赤みを取り戻して行く。



 私は力を注ぎ込むと少しふらついた。


 「アリーシア大丈夫か?午前中は診療所が忙しかったんだろう?それでこれじゃあ身体が持たない。さあ、俺につかまれ。モーガンお前はここで様子を見て色。俺はアリーシアを少し連れ出して来る」


 「はい、任せて下さい!」


 私は隊長に抱かれて表に連れ出された。


 「隊長。歩けますから!」


 「ばか、大事な聖女を粗末に扱えるか。いいからお前はじっとしてろ!」


 優しいんだか厳しいのかわからない態度に固まったまま外に連れ出された。


 小屋のすぐそばには小川が流れていて隊長はそこまで私を連れて行くと草の上にそっと下ろされた。


 「ちょっと待ってろ」


 リント隊長は小川で布を濡らして来るとそれを私に差し出した。


 「ほら、汗。拭いたらどうだ」


 「あっ、ありがとうございます」自分が汗をびっしょりかいている事も気づいていなかった。


 「喉は乾いてないか?これを」すっと差し出されたカップには水筒。


 (隊長もこれ飲んだはず… )いきなり羞恥が芽生えた。


 (でも、隊長はそんなつもりじゃないわよね…)


 そう思い直してその水筒を取った。指先が触れ合って思わず水筒を落としそうになる。…私、最悪。


 「あっ!すみません。…頂きます」私は厚意に甘えてその水を飲みほした。


 「クックッ。今日はやけに素直だな」


 散々隊長とは言い合いをしたことを思い出す。


 「わ、私だって隊長に喧嘩を売ってたわけじゃありませんから、ご厚意には感謝します」


 「ああ、わかってる。こっちこそ。アランの事いつもありがとう。あいつ最近すごく楽しそうで俺もうれしいんだ。父親とは言ってもやはり母親がいないと気が付けないことも多くて」


 「そんな、隊長はすごいと思います。アランだってあんなに素直でいい子なのは私なんかと違って隊長が愛情を注いでいるからで…」


 「そう言えばアリーシアは教会の孤児院で育ったんだったな。親はわからないのか?」


 「えっ?まあ…赤ん坊の時捨てられたと聞いています」


 「そうか、すまん。悪いことを聞いた。でも、こんなに立派になって」


 (一瞬私の素性に気づいたのかとどっきりしたが違ったらしい。まあ、隊長に取ったら私なんて子供くらい年が離れてるんだし…特に意味はないんだろうな)



 そこでモーガンが呼ぶ声がした。


 「隊長~パシュが気が付きました」


 「気分はどうだ?」


 「ええ、おかげですっかり‥戻ります」


 私達は小屋の中に入るとパシュはもう起き上がっていた。


 服は血が付いていたが傷は塞がったようだ。彼は私に気づいたらしい。


 「アリーシアが助けてくれたのか?」


 「ええ、間に合ってよかったわ。駄目じゃない。無茶しちゃ。仲間が呼びに来なかったらほんとに死んでたかもよ」


 「いやぁすまん。心配かけた。あっ、隊長まで来てたんですか…何だか大事にしましたね。ですが、魔樹海の様子がおかしいんです。魔獣たちがひどく苛立ってるようなんです」


 「やっぱりか。ここの所見張りからも魔獣がかなり苛立っていると報告を受けている。一度大掛かりな魔獣狩りが必要だな」


 「その時は俺達にも声をかけて下さいよ」


 「お前らの力は借りなくても大丈夫だ」


 「そりゃあ騎士隊には聖女も聖獣だっていますもんね」


 「当たり前だ。帝国の騎士隊なんだからな」


 「そうですよね。でも、近頃バカルじゃ国王と国王の反対派がもめてるって話じゃないですか。この国大丈夫なんです?」


 「おい、国王がどうなろうと帝国が揺らぐはずがないだろう。お前そんな心配より自分の身体の心配をしろ!ったく。アリーシアこいつはもう大丈夫そうだ。帰ろう」


 「パシュほんとに無理しないでよ。一応回復魔法もかけたけどしっかり食べて休養を取らなきゃ」


 「アリーシア回復魔法もつかえるのか?すごいな。それでこんなに身体が楽なのか。参ったなほんとありがとう。今度お礼するからさぁ」


 「お礼なんて、じゃあ私はこれで失礼します」



 帰り道私はふとリント隊長に聞いた。


 「バカルで王族がもめているというのはほんとうなんですか?」


 「ああ、どうやらザイアス王サイドの貴族たちとロイド殿下についている貴族たちが国王争いでもめていると聞いた。まあ、俺達には誰が国王になろうと同じようなもんだからな」


 「それは違うんじゃありません?温厚な国王と独裁的な国王では…現にザイアス王は他国を亡ぼしてますし今もその火種がくすぶっているとも言われていますよ。現にジスタル国やミタイン国も再建を求めていると噂がありますし」


 (私はそんな話は関係ないと思っていた。でもイエルハルド国の女王の血を引いているのだ。もしイエルハルド国の再建が叶うとなったら思ってしまった)




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