第34話 診療所開業

 数日のうちに診療所は整い開業にこぎつけた。


 その間私は診療所の片づけやアランに会いに行ったりもちろんガロンにも会いに行った。


 毎日会いに行くのでアランもガロンも元気いっぱいだった。


 そして診療所初日。キルヘン辺境伯がギルトや街中にチラシを出したせいか時間前には十数人の人が並んでしまった。


 聞いた所によると先代のジルド・キルヘン辺境伯は黒翼騎士隊の騎士隊長をしていて魔獣退治にも領地の運営にもたけていたらしい。


 だが、新しくギバン・キルヘンに変わった途端、黒翼騎士隊の騎士隊長は別の男リント・マートンになり領地運営もあまり芳しくないと言われているらしい。おまけに女癖が悪く離縁も二度ほどしていて女性の評判は最低、だから今回の診療所の開設は辺境伯にとっても自分の評判をあげるチャンスでもあったらしい。



 私はそんな噂を聞いてやっぱりと思ったが、診療所が開けたことは大いにいい事なのでと思う事にした。ただしこれ以上辺境伯と近しい付き合いをするつもりは全くない。


 それにしても…ここ、新しい店の開店じゃありませんよと言いたいくらいの人だかり、だが具合が悪そうな人を待たせるのもと時間より早めに診療所を開けた。


 隊長の提案で二階の部屋があるので私はここに住むことにもした。


 まあ、教会でこのままお世話になるのもどうかと思っていたのでちょうど良かったのだが…


 それに手伝いにとネクノさんとクレアさんが来てくれていた。


 「まあ、こんなに早くからすごい人ですよ。みんな聖女様の治癒が受けれると聞けば無理もないでしょうけど‥」ネクノさんも驚いているらしい。


 「まあ、教会では一般の人の治癒は禁止という事なのでこうするより仕方ありませんが…アリーシアほんとにひとりで大丈夫なんです?」


 クレアさんはさすがに私が心配らしい。


 「大丈夫ですよ。治癒魔法をするだけです。他の治療はやっている時間もなさそうですし」


 「でも、ひとりは手伝いが必要だわ。私が来れればいいんだけど教会の方もいろいろあるし」


 「まあ、そのうちに…とにかく今日の診療始めますのでよろしくお願いします」



 診療所は待合室と治癒室に別れていて奥には台所や水回り関係の設備があった。


 最初の患者は前にも診た事があったテクスさんだった。


 神経痛がひどいらしく、ここに診療所が出来れば毎日でも通えると喜んでいた。


 早速治癒魔法をかける。あっという間に痛みが和らいだらしくテクスさんの顔がほっと緩む。


 「ああ~あんたの治癒魔法はほんとに良く効くね。有難いよ。昔はこの辺りは女王様の加護でみんな病気なんかしなかったもんだ。イエルハルドはどこより豊かでどこより住みやすい国だったんだ。それなのにさ…」


 「そんな事…どこで聞かれているかわかりません。コルプス帝国に反旗を翻すような事は言わない方が…」


 私は自分の母がこの国の為に尽くしていたことを知って嬉しくなった。そしてそんな幸せを潰したコルプス帝国が憎いとも…だからと言って行動を起こすわけでもないけど。



 「テクスさん、今日は忙しいので話はまた今度しましょう。気を付けて帰って下さいね」


 「わあ、気にしない出遅れ。年を取るとつい昔の事を思い出してしまうんだよ。まったくねぇ…」


 そうやって次々に患者さんを診て行く。


 持病に苦しんでいる人から風邪で熱のある人。腹を下した人、足をくじいた人など。


 あらかじめひとりで診療をする事や入院は出来ない事の説明があった精か、そんな重症患者もなくて診察はスムースに進んだ。


 途中でネクノさんは仕事があるからと帰って行った。


 クレアさんも午後には教会に戻れそうだと話していたところに外に馬が来て冒険者らしい人が駆け込んで来た。


 「おい、助けてくれ冒険者が大けがをした。魔樹海の外には連れ出したんだが何しろ出血がひどくて」


 「それで魔獣は?」


 「魔獣は退治した。でも牙にやられちまって。クッソ。パシュの野郎深追いするから」


 「えっ?怪我をしたのはパシュさんなんですか?」


 「ああ、あんた知り合いか?」


 「まあ、顔を知ってる程度ですが…だったら騎士隊に連絡した方がいいと思います」


 クレアさんが騎士隊に知らせて騎士隊員数人と隊長と私が向かう事になった。


 


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