第33話 辺境伯と会う

 私は診療所の事で早速翌日騎士隊に来るように言われていた。


 隊長室に通されると話は早かった。


 「アリーシア。診療所にはどんな設備が必要なんだ?詳しい話を聞かせてくれ。そしてすぐに申請を出す。それに医者の手配や看護師も必要か?急げば来週にでも…」


 「ちょっと待って下さい隊長。私の考えでは診療所と言っても簡単なけがや病気を私の治癒魔法で治せれればと思っているだけで、医者とか看護師なんかは特には必要ないかと」


 「ああ、そういう事なら空き家を片付ければすぐにでも始めれるんじゃないか?」


 「でも、領地法の事もありますし一度キルヘン辺境伯にも話をしなければ」


 「ああ、その辺りの事は俺がやっておく。領地法の件は辺境伯が言い出したことだから急ぐように伝える。診療所は騎士隊員の利用もあるからこちらで準備をする事にしたと言えば文句はないはずだ。それでどうだ?」


 「ええ、もちろん、でもお話には一緒について行きます。だって私が最初に言いだしたことですし、その方が辺境伯にも心象がいいはずです」


 「アリーシアは辺境伯がそんなにいいのか?俺の手続きでは不満なのか?」


 隊長の片方の眉がピクリと上がる。


 私は何を言ってるのかと思う。


 (もちろん隊長の話はうれしいし、あの辺境伯とはあまり会いたくはない。でも物事には仕方のない事もある訳で…)


 「そんな訳…一応話の筋を通した方がいいと思うだけです。私だってあんなエロじじい嫌いです!」


 「おっ、そ、そうか。ならいいんだ。そうだな。話の筋は通した方がいい。では一緒に行って話をつけるか。向こうの都合も確認しないとならないが昼頃でどうだ?」


 「はい、構いません。少し時間がありますのでアランの所に伺ってもいいですか?」


 「ああ、アランも喜ぶ。ぜひそうしてやってくれ」


 隊長はすこぶる機嫌よくそう言った。


 「では、都合のいい頃に呼んでもらえますか?私は隊長のお屋敷にお待ちしておりますので」


 「ああ、そうしよう。では、後程」


 *~*~*


 キルヘン辺境伯とはウルプ街にあるギルド出会うことになった。


 私は屋敷まで行くのも嫌だったしちょうど良かったと思った。


 「それで隊長。キルヘン辺境伯はどうしてギルドに?」


 「ああ、彼がギルドの会長をしているんだ。旅人や商人などの出入りなんかを管理するのも辺境伯の仕事だろう。ここのギルドには町を訪れるほとんどの人間が立ち寄るんだ。だから彼もここにしょっちゅう顔を出すって事だ」


 ここのギルドでは冒険者の登録や滞在管理もするし旅人の宿泊施設の管理。商人の出入りまで管理しているらしい。


 ギルドについて中に入るとすぐにキルヘン辺境伯が出迎えてくれた。


 「これは聖女様。お待ち申しておりました。さあ、どうぞ中へ」


 私に近づいて手を差し出された。


 「ああ、辺境伯。今日は忙しい所すまんな。ではアリーシアさんこっちだ」


 リント隊長がその手より先に私の手を掴んで中に入って行く。


 辺境伯はあからさまに嫌そうな顔をしてついて来た。


 リント隊長が診療所の話をした。


 「それでは騎士隊ばかりが聖女の恩恵を受ける事になりませんか?私はこの街の為にと言われる聖女様のお気持ちを汲み取って領地法の改正をしたんですよ。そんな事なら協力するわけにはいきません!」


 私は焦った。領地法がなければみんなに治療が出来なくなる。


 「いえ、そうおっしゃらずキルヘン辺境伯にはとても感謝しているんです。こうやって私の話を聞いていただいてそれに騎士隊の方からのご支援も頂けて私は本当にうれしく思っているんです。なにより隊長に進められた場所は治安もいいですしキルヘン辺境伯がご紹介して下さったところからも近いですし…どうかご気分を悪くなさらず」


 私は嫌だったが辺境伯の手をガシッと握る。


 辺境伯がにんまりと顔をほころばした。


 (気持ち悪い。このおっさん)


 「まあ、聖女様がそこまでおっしゃるなら…まあ、治安の面では言われる通りですし…」


 「お願いしますぅ」私は吐き気を催しながら最後の一押しをする。


 リント隊長が不機嫌な顔でその様子を見ている。これ以上は許せんぞとでも言いたげに。



 「わかりました。今回は聖女様を立てましょう。それにこれはあくまで街のためですから。そうですよね騎士隊長さん」


 「ああ、騎士隊としても彼女にはすぐに魔獣退治に参戦してもらえるメリットもある。彼女がいれば隊員の士気も上がるし、怪我をしても安心だからな」


 「聖女様は魔獣退治にもいかれるんですか?」


 キルヘン辺境伯の手がさらに私の手をしっかりと握りしめる。


 リント隊長の顔がますますいかつい顔になって行くが辺境伯はちっとも気づいてはいない。


 「あたなはなんてすばらしいお方なんでしょう」


 「いえ、当然の事ですので。あのキルヘン辺境伯。手を離して頂いても…?」


 私は握りしめられた手を‥その脂ぎった手から救い出そうともがいた。


 「あっ、これは失礼しました」


 「相変わらず女には手が早いと見える。ったく。年を考えたらどうなんだ?」


 隊長が我慢できないとばかりに悪態をついた。


 辺境伯はすっとそっぽを向き私に満面の笑みを向けたのだった。

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