第31話 アランとピクニックごっこ


 私が騎士隊の建物を出ると遠くにアランの姿が見えた。庭で寂しそうにしている。


 「アラン~」思わず声をかけた。


 「アリーシア。ピクニック行こ!」


 ふっと見上げた顔が笑顔になってそう言われる。もう断りようがないがどうしよう。


 「ああ、そうだね。でも、何の準備もしてないんだよ。今日は無理かな」


 「僕ネクノさんに頼んだよ。ネクノさんすぐに準備するって言ったんだよ。だからいいでしょう?」


 「そうなの。そう言う事ならいいわよ」


 「うん。僕パパ呼んでくるぅ」


 アランはそう言うと走り出した。


 「アラン。ちょっ。パパは仕事だから…」(ああ、足ははやっ。まあ、すぐに諦めて帰って来るか…)私はしばらく外で待つことにした。



 騎士隊の外で隊員とすれ違う。


 「アランどうした?」


 「パパとピクニック行くの」


 「そうか。ってパパ仕事だろ?」


 「やだ。パパと行くの」


 アランは建物の中に入ろうとする。そこに副隊長のドリクさんが来た。


 「アランどうしたんだ?」


 「僕ね、アリーシアとパパと一緒にピクニック行くの」


 「そうか。いいなパパも一緒に‥そうか。よし俺が呼んで来てやろう」


 「ふくたいちょうさんありがとう」


 「良く言えました。ちょっと待ってろ」


 副隊長が建物の中に入って行ってしばらくするとリント隊長が出て来た。



 「パパ行こ!」


 アランは嬉しそうに駆け寄る。


 「アランどこに行くんだ?」


 「えっとね。アリーシアも一緒にお庭でピクニックするの。僕ネクノさんに準備お願いしたんだよ。だから行こ!」


 私は少し離れたT頃からふたりの様子を見ていた。あっ、リント隊長と目が合う。


 隊長の口元がキュッと結ばれて困ったなぁと腕組みをする。


 私は急いでアランの所まで走った。


 「アラン。パパはお仕事なんだよ。今日はお姉ちゃんとピクニック行こう。ほら」


 私はアランの身体をすくい上げる。水平にして上下に揺らして「ほ~ら。お庭までTガロンみたいに飛んでっちゃおうか。ほら‥びゅ~んって飛んじゃうよ~」


 アランはすぐに機嫌を直してきゃきゃと笑い始めた。


 私はくるりと一回転して隊長に大丈夫と合図を送る。隊長もすまんと手を挙げた。



 「坊ちゃん、準備出来ましたよ~」


 いいタイミングでネクノさんがアランを呼んでくれた。


 「アラン、準備できたんだって。さあ、お弁当はどこで食べようか?」


 アランを地面に下ろして尋ねる。


 「あの大きな木の所がいい」


 「ああ、あの大きな木ね。いいわね。じゃああそこまで競争だよ」


 そう言うとアランはすぐに走り出した。


 私はネクノさんからバスケットを貰ってすぐに追いかける。



 アランは大きな木の所まで来ると「いっちば~ん!」と言って木の幹に手を付けた。


 私は「にば~ん!」と言いながら同じように木の幹に手を当てた。


 アランのお母さんは赤ん坊の時隊長と離縁して一度もあった事がないと聞いた。だからアランは母親を知らないのだとも。


 (こんなかわいい子を残して行くなんて‥私も両親の事は知らずに育ったけれどそれがどんなに寂しい事かはよくわかる。アランにはパパしかいないわけで…)胸がぞわりとする。


 アランが可哀想だとは思う。でも、これは同情なんかじゃない。なぜか放っておけない自分がいた。


 「さあ、アラン手伝ってくれる?」


 「うん」その瞳はキラキラ輝く。


 私はバスケットから敷物を取り出すとアランに「じゃ、アランはこっちを持って」と敷物を差し出す。


 ふわりと敷物を広げて木の根元にそれを敷く。


 「ふふ。おじゃましましゅ」靴を脱いで敷物の上に座る。


 (グフッ、可愛すぎるアラン)


 「さあ、ネクノさんは何を作ってくれたのかな?楽しみだね~」


 「うん。僕ね。なんでも食べれるよ。しゅききらいだめってパパ言ったもん」


 アランって甘えると言葉が赤ちゃん言葉っぽくなる?可愛い…


 「偉いね。さあ…これはなんだ?」


 私は多分これはクッキーの型抜きを使った思われる犬や兎の形になったサンドイッチを取り出した。


 「あぁぁぁ、犬だ。わんわん。こっちはうしゃぎしゃん。僕どっちもしゅき」


 「うん、すごく可愛いね。ほら、まだあるよ。こっちは…」


 「これガロンだよ。ほら、ここが翼でここが顔…」アランがぐっと持った拍子…ガロンの翼がちぎれた。


 「「あっ!!」」


 アランの顔が顔面蒼白になる。


 「ど、どどど…「大丈夫、だってほら、食べるんだよ。がぶって」フフフ。アリーシアじゅるい」


 私はちぎれた翼をぱくりと口に入れた。


 「僕も…ぱくっ…おいしい~」


 中はイチゴジャムだった。


 (さすがネクノさんすごいです)



 私達は次々にサンドイッチを食べて行く。私はすごくいい気分で上を見た。


 あっ、この木はアカシドだ。赤い花びらが開いてとても綺麗だった。


 私はふっとアランに聞いた。


 「アラン。この木の名前知ってる?」


 「うん?」


 アランはサンドイッチを頬張ったまま上を見た。


 「パパ?」


 「いや、パパはいないはずよ…」


 「やあ、アラン楽しそうだな。パパも入れてくれるか」


 そこにはリント隊長が立っていた。




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