第30話 もう誤魔化せません

 私はどうしようかと思ったがリント隊長の顔はかなりまじだ。


 「誤魔化しはなしだ。アリーシア。ガロンの言ってることが分かるのか?さっきの会話はどう見てもそうとしか言いようがないぞ」


 「もう、見てたんですか。隊長も趣味が悪いですよ。人の話を聞くなんて…」


 私は言い訳も思いつけずそんな悪態をつく。


 「ああ、だがガロンは人じゃないしな。いいから本当のことを言え!」


 リント隊長はぐっと私に近づいて腕を組む。


 (かなりお怒りのご様子。困った。そうだ!)


 「困りました。これは国家機密でいくら黒翼騎士隊の隊長でも言えないんです」


 (そう言って我ながらうまい事を言ったと思った)


 「はっ?おい、俺ははっきり言ってガロンの責任者だ。その俺に話せないのはおかしいだろう?国家機密?ふざけるな。ガロンの事に関しては俺には責任があるんだ。お前がおかしなことをしようとしたとも考えられる。さあ、正直に話せ!」


 (誰かこの人を黙らせて…いないな。)


 「そ、そう言えばエクロートさんは?」


 「バカルに帰ったぞ。いいから早く言え!」


 ジト目で見られる。


 「だから…それは…」


 「これ以上とぼけるなら牢に入ってもらうぞ」


 「そんな。ひどいです。私はガロンを助けたじゃないですか」


 「いや、もしかしたらガロンをどうにかしようとしてるのかもしれん」


 「そんな…わかりました。話します。でもこの事は絶対に他の人には秘密にして下さいよ」


 「ああ、何しろ国家機密だ」


 (くぅぅぅ!いやな人!)


 「実は私、聖獣の言葉が分かるんです」


 「はっ?」


 リント隊長の顎が開いた。


 「はっ、じゃなくて、聖獣の言っていることが理解できるんです」


 「いつから?」


 「最初から…ああ、18歳で聖獣と関わるようにをなってからですが…」


 「だからガロンがあんなに懐くのか?」


 隊長はすべて納得したみたいな顔で聞く。


 「そうです。アギルの具合が悪いのもアギルに言うことが分かったからでガロンもそうです」


 「なんだ。それであんな手際よく…ったく、それならそうと…クックッ」


 何だかほっとしたような雰囲気。おまけに笑っている。


 「私はこれで…失礼して」


 「おい、そうとわかったらこれからガロンの事よろしくな。何かあったらアリーシアに来てもらおう。いいな?」


 「え~?そんなの困ります。私、診療所を始めるつもりなんですから」


 「なに?あいつの世話になる気か?」


 一気に隊長の機嫌が悪くなる。


 「まあ、そういうことになりますかね…ちょっと嫌ですけど一応辺境伯ですし…」


 「それはだめだ。診療所か…だが、この辺りなら騎士隊員くらいだぞ。そうだ。うちの隣が空いているぞ。あそこなら騎士隊員でもすぐに行けるし…」


 「いえ、隊長、診療所は誰でも利用できるようにしたいんです」


 「はっ?あれほど言っただろう。まだわからないのか?」


 「出来るんです。領地法って言うので魔法の使用制限の範囲を広げれば平民でも治癒が受けれるんですよ」


 「領地法?そうか。あいつ考えたな。そうやってアリーシアの気を引こうって…ったく。あのエロじじい。だったら、なおの事だ。あいつの言うことを聞いてはだめだ。診療所は家の隣に決めろ。あいつには場所は決めたと言えばいい」


 「でも、勝手に決めていいんでしょうか?キルヘン辺境伯個人資産を出すつもりでしたけど」


 「あいつそんなことまで…心配するな。俺が話しをつける。あいつが言い出したんだ。嫌とは言わせない。それに騎士隊員も利用するから診療所の金は騎士隊で出す。アリーシアは気にしなくていい」


 「そしたら騎士隊員しか使えないとかじゃないんです?それは嫌なんですけど」


 「領地法あるんだろ?そう言う事なら誰でも来ればいい。それでいいか?」


 「いいんですか?」


 「ああ、乗り掛かった舟だ。それに騎士隊員も助かる。ガロンの所にもすぐ来れる。魔獣が出てもすぐ来てもらえる。それが条件でいいか?」


 「ええ、もちろん。ありがとうございます隊長」


 リント隊長の顔がとっても楽しそうで私は言われるままに受ける事にした。


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