第6話 書簡が届く


 3日目の朝に王都バカルから書簡が届いた。


 書簡にはロイド殿下の署名があった。


 今回の婚約破棄についての理由とアリーシアの聖女としての資格を剥奪することが書かれていた。


 私は神官の執務室に呼ばれた。シスタークレアも同席していた。


 ロベルト神官は驚いて私に詰め寄った。


 「アリーシア。ここに書かれていることは本当なんですか?あなたは聖獣を殺めようとしたのですか?それに聖女の資格も剥奪すると!」


 ロベルト神官は怒りで手に持った紙がブルブルと震えている。



 (ああ…やっぱり。でも、私は無実だ。ここははっきり言っておかなくては)


 私は怒っている神官様に向かって話を始める。


 「ロベルト神官様。聞いてください。私は聖獣に毒など盛っていません。本当です。殿下との婚約がなくなったのは事実ですが私にとってはうれしい事です。殿下は私の言うことを聞いてもくれなかった。でも、ここでそんな風に思われるのは耐えれません。もし、私を疑われるならここにはいられません」


 「本当ですかアリーシア?」


 「もちろんです」


 私は聖女だ。聖女は清廉潔白でなければならない。もしうそを言えばその力を失くかも知れないと言われている。だから聖女は嘘は言わないはずだった。


 「絶対に?」


 ロベルト神官は更に念を押すようにぎろりと睨む。


 「私は聖獣をとても大切に思っています。彼らがどれほど貴重な存在かも知っています。毒を使ってどうにかしようなどと絶対にそんな事しません」


 私ははっきりそう言い切る。あまりに力が入り過ぎたせいか身体の周りをほんのり淡い光の粒が包んだ。


 「「ああ…聖女よ。どうか御心をお沈め下さい」」


 神官とシスターが両手を組んで祈る。


 「アリーシア様。あなたを疑って申し訳ありませんでした。あなたがどれほど高潔なお方かわかりました。どうかこの教会で病めるもの達の力になって下さい」


 ロベルト神官とシスターたちは跪き首を垂れた。


 「神官様、シスターそんな事やめてください。私はそんな高貴なものではありません。これまで通りでお願いします」


 私は慌ててロベルト神官の手を取り立ち上がってもらう。シスターも一緒に立ちあがる。


 「いいんですか?」


 「もちろんです。特別扱いはやめてください。ここでは私もみんなと一緒に働きます。何でも言ってください」


 「ありがとうアリーシア様」


 「アリーシアでいいですから…」


 やっとロベルト神官が微笑んだ。


 それからも診療所で私は治療をやめなかった。


 テクスお婆ちゃんとはすっかり仲良くなり、近所のパン屋のエミルさんは火傷をしたって来てすぐに治してあげたらそれはもう大喜びでその日の夕方にはパンがたくさん届いてお揃いた。


 それに肉屋のボーンさんは肉をさばいている時に指をひどく切って出血が止まらないと大慌てで来てそれも私があっという間に治しちゃったから翌日にはソーセージがたくさん届いた。


 でも、そんな事はもうやめてって言った。だって私はそんなつもりで力を使ってるわけじゃないんだから。


 みんなに喜んでもらえるのが私の喜びなんだもの。


 本当にここに帰って来れて幸せだった。



 それから数日後黒翼騎士隊の隊員が数人診療所に踏み込んで来た。


 「アリーシアはいるか?」


 「はい、私がアリーシアですが何か?」


 「聖女の名を騙って不正な医療行為をしているらしいな。魔力を人に使うのはだめだって知ってるはずだ。アリーシアを逮捕する」


 「待って下さい。彼女は苦しんでいる人を助けているんです。それの何が悪いんですか。いいですか。ここは診療所です。手荒な真似は許しません」


 「セベル先生。いいんです。私はこの人達と一緒に行きます。でも、私は悪い事をしたと思ってはいません」


 騎士隊員が私の腕を強く掴む。


 「お前、罪を犯して何を言ってるんだ。そう言えばお前聖獣も殺そうとしたらしいじゃないか」


 「ああ、この女相当性悪だぞ。やっぱり殿下が言っていたことは本当だったな」


 「私は誓ってアギルには何もしていません。殿下はきっと騙されて…」


 「うるさい!。いいから黙って付いて来い!」


 騎士隊員は私を診療所から連れ出す。



 騒ぎを聞きつけてロベルト神官が駆け付ける。


 「これはどういうことです?すぐにアリーシアを放して下さい。彼女は聖女ですよ」


 ロベルト神官は怒りも露にして騎士隊員の前に両手を広げて立ちはだかる。


 「卑しいものに魔法を使うことは禁止されている。彼女は法を犯した。連れて行く」


 騎士隊員の態度は冷たく厳しい。


 「ですがここにアリーシアを寄越したと言うことはここで聖女の力を使ってもいい事ではないのですか?私はそう判断したから診療所で働いてもらっていたのです」


 騎士隊員の顔が一瞬引きつる。


 だが、すぐに他の隊員と顔を見合わせて俺達は間違ってないと頷き合ってニヤリと口元を緩めた。


 「そりゃ神官の勘違いだろう。とにかく彼女は騎士隊で預かる。今後の処遇は騎士隊長に聞いてからだ。わかったらそこを通してくれ!」


 「神官様、私は悪いことはしていません。きっと大丈夫ですから」


 私はこれ以上神官たちに迷惑はかけられないと咄嗟にそう言った。


 「アリーシア心配ない。私からも騎士隊長に話をする。だから心配するな」


 神官ロベルトはアリーシアに近づくと耳元でそう囁いた。


 アリーシアは大きくうなずくと騎士隊員に連れて行かれた。




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