第5話
プラットフォームには、特急大阪梅田行きが、停まっていた。
そして、特急PRiVACEの4号車に、キヨテルとミツキは、並んだ。
京都河原町駅で、特急券を乗務員から購入して、並んで乗った。
「さっきの男の人」
「あいつか?」
「怖かった」
とミツキは、少し震えていた。
勿論、キヨテルは、怒り心頭だった。
「今日、京都へ来たのに、とんでもない思い出だったね」
「でもね」
「何?」
少し、ミツキは、震えが止まっていた。
「キヨテルは、私のために、怒ったんだね」
「まあ」
と言った。
特急PRiVACE、大阪梅田行きが、京都河原町駅を出発した。
行きと違って帰りは、早かった。
二人は、少しだけ、持っているカフェオレを飲んだ。
外を見たら、真っ暗になっている。
住宅街の明かりが、夜の闇の中で、黄色く光っている。
ミツキは、内心、思った。
如何にも、剣道とかラグビーとかそうした男らしいスポーツとは無縁のキヨテルが、怒った。
そして、あれは、懸命に、守ろうとしていたと分かった。
反対に、キヨテルは、内心、あんな程度しか怒ることができなかった自分が情けなかった。「お前、ええ加減にせえよ」なんて、そこのごみ箱をバンと蹴って、帰っていたのだから。
電車は、烏丸駅を通って、桂駅を通って、長岡天神を通った。
昔、キヨテルは、剣道をしている同級生にボコボコにされて喧嘩は嫌だった。鼻血まみれになったのだから。
また、たまたま、東京の品川駅で同僚と喧嘩して、警視庁に行かされて、お巡りさんに注意されたことがあった。
それが、東京を出るきっかけになった。
それで、品川で勤務していた会社を辞めて、大阪に引っ越してきた。
キヨテルは、不器用な男だった。
今、電車は、長岡天神から高槻市、茨木市に向かっている。
電車は、羽柴秀吉と明智光秀が、戦った大山崎駅を超えた。
キヨテルは、男らしくないなぁとコンプレックスを感じている。電車は、大阪梅田に向かっている。だが、かっこいいところなんて見せることはできない。
電車の運転士だって、色弱でなれない。
反対車線から、京都方面に電車が走ってきた。
その時、軽く揺れた。
そして、キヨテルは、一瞬、ミツキの手をギュッと握りしめた。
その時だった。
ミツキは、キヨテルの肩を優しく抱いた。
「おい、見てるぜ」
「いいんや」
「だって」
「今日、キヨテルは、私のことを守ってくれたのだから」
電車は、いつの間にか高槻市まで来た。
大阪医科薬科大学の建物が見えた。
そして、JR京都線、東海道線の新快速の車両が、大阪・神戸三宮方面に走っていた。
茨木市を通過して、車両車庫のある正雀駅を過ぎて、淡路駅まで来た。
実は、ミツキだって、昔、付き合っていた男に、殴られた酷い思い出があった。
だけど、それを、口には出せなかった。
そして、いつの間にか十三を過ぎていた。
居酒屋とかパチンコ店の看板が多かった。
特急大阪梅田行きは、淀川を轟々と音を立てて、終点に向かっている。
ミツキとキヨテルを乗せたPRiVACEは、優しく大阪の夜の街が迎えていた。
そのまま中津駅まで来て、黄緑色の大阪シティバスが走っていた。
今日、少し、あの街まで行った。
大阪から京都まで行った。
「キヨテル」
「何?」
「大阪に着いたよ」
「梅田?」
「そう、梅田」
「何かご馳走するの?」
「うん」
二人は、大阪梅田駅の改札口を出た。
そして、ミツキは、キヨテルは、マクドナルドへ向かった。
「サムライマックを食べたい」
とミツキは、言った。
「これが、ご馳走?」
「いや、これじゃないよ」
と言った。
キヨテルは、何がご馳走かと悩んだ。
帰ってきた身近な街が、大阪になっている。
大阪メトロ御堂筋線で、堺市の北花田駅まで帰ろうとしたら、
「待って」
「何?」
「もう少し、梅田を歩こう」
と言った。
そして、二人は、ゲームセンターで、電車でGO!GO!や、桃太郎電鉄のゲームをした。
更に、カラオケボックスに入って、2時間歌を歌った。
キヨテルとミツキは、二人で、いきものがかりやMr.ChildrenやAKB48やyoasobiを歌った。
「京都も良いけど、大阪もええやろ」
とミツキは、言った。
今日のミツキは、何故か、気持ちが高ぶっている。
久しぶりに、ミツキの大阪弁を聞いた。
実は、キヨテルもミツキも、お酒が飲めない。
ただ、2時間ほど歌ったら、もう、電車がなくなっていた。
「どうする?」
と思った。
その時、ミツキが
「今日のご馳走だよ」
と言って、そこにあったホテル「二人の夢の部屋」に入った。手を引っ張ったのは、ミツキだった。
ミツキは、部屋の中に入っては、急に
「キヨテルのことが、好きだよ」
と言って、急に服を脱いだ。
ミツキは、青色のブラジャーに青色のパンティーだった。ゆっくり服を脱がして、二人で風呂に入って、逢瀬を楽しんだ。
ミツキは、甘い匂いと柔らかい身体だった。
キヨテルは、楽しんだ。
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