第3話

 阪急京都本線の茨木市駅から、また特急京都河原町行きに乗った。今度は、高槻市駅に向かっている。

 対向車線からは、「準急天下茶屋」行きのブラウン色の電車が、走ってきた。

 そして、ミツキとキヨテルは、JR京都線、東海道線の方に、京都方面から向かって左側の方を観ていた。

「あれは、何線?」

「JR京都線」

「JRキョウトセン?」

「そう、昔、JRの前は、国鉄時代は、東海道線って言ってね、東京駅から横浜駅、熱海駅、静岡駅、浜松、名古屋、京都、大阪と通って、神戸駅が、終点だった」

 と急に、キヨテルは、話を始めた。

 いや、本当は、キヨテルは、鉄道オタクだった。

「JRになってから、神戸線・京都線そして琵琶湖線って言うようになったんだ」

「電車、詳しいの?」

 本当は、ダンスサークル以外に鉄道サークルにも入っていた。

 車内から、JR京都線、東海道線を観ていたら、早い電車が遅い電車を追い越している。

「キヨテル」

「何?」

「あの白色で前が出っ張っている電車が、通勤電車を追い越したよ。あの出っ張っている電車は、何?」

「くろしお号」

「くろしお?」

「京都から、新大阪を通って、大阪駅そして天王寺駅を通って、JR阪和線で、堺とか岸和田、和歌山・白浜まで行くんだぜ」

「そうなの。乗ったことある?」

「一回だけ、和歌山まで特急くろしお号に乗ったことがあった。キティちゃんのイラストが描いていた。和歌山まで行ったことがあった」

「へぇ」

「だけど、カーブが多いから、振り子式で、ミツキは、乗り物酔いをするから、薬を飲まないといけないなぁ」

 と言った。

 茨木市駅から高槻市の間を、特急京都河原町行きは、走っている。

 住宅地が見えながら、時々、田畑も見える。

 そして

「あ、サンスターだ」

「そうだね、歯磨きのサンスターだね」

 と言った。

 高槻市駅前には、大阪医科薬科大学の病院もあった。関西大学の看板も見えた。そして、大きなショッピングモールもあった。

「紀伊國屋書店もあるみたいだよ」

 と言った。

「オレさ」

「うん」

「紀伊國屋書店で、入社試験を受けたけど、落第したぜ」

 と言った。

「私だって、テレビ局で仕事をしたいと思ったけど、不採用だったよ」

 なんて言った。

 高槻市駅を、電車が、出発すると、今度は、そのまま、京都方面に向かっている。雪がチラチラ降っている。

「結構、外の景色を見るのは、楽しいな」

 と言った。

 高槻市駅の近所に大きな広場があった。

「あそこで、バドミントンをしている家族がいるよ」

「この寒いのに」

「でも、身体は温まるよ」

 なんて言っていた。

 その内、特急京都河原町行きは、大阪府三島郡島本町にまで進んできた。

「あそこはさ」

 とキヨテルは、言った。

「サントリー工場があるんだぜ」

「テレビドラマになったね。NHK連続テレビ小説『マッサン』だったね」

 とミツキは、言った。

 確かに、2014年9月末から2015年3月まで放映されていたなぁと思い出した。

「アルコールって、麦から出来ているんだぜ」

 とキヨテルは、自信をもって言った。

「ブドウ糖が、エタノールになってアルコール発酵するんだよ」

「よく知っているなぁ」

「だって、私、大学生の時、生物化学の講義で落第して、必死になって覚えていた。一般教養の授業だけどね」

 何か風景を見て、ただ、話をしているだけだが、飽きることはなかった。

 そして、電車は、大山崎駅、西山天王山駅に差し掛かった。

「ねえ」

「何?」

「この辺りって、豊臣秀吉と明智光秀が、戦った天王山があったんだよ」

「いや、豊臣秀吉じゃなくて、正確には、羽柴秀吉だけど」

「そうだけど」

「だけどさ」

「うん」

「明智光秀って、本能寺で、信長を殺したじゃない。どうしてだったのかな?」

「やっぱりさ」

「やっぱり…」

「光秀は、真面目過ぎたんじゃないか。公式主義になっていて、融通が利かなかったんじゃないか」

「反対に、秀吉は、融通が、利いていたのかな?」

「アイデアがね、凄かったと思う。実際に、秀吉は、そんなに槍を回して戦った武将ではなかったからね」

「今から、天王山へ登ってみる?」

「いや、しんどいから登らないよ」

「でもさ」

「何?」

「昔の人って、鎧とか何キロもあって、重たかったのに、何キロも走って闘っていたんじゃない。凄い体力だったなぁと思う」

「俺は、できないよ」

「昔の人は、40キロ一日歩いたって」

「俺なんか、10分歩いただけで凹むのにね」

 電車は、長岡天神駅を過ぎて、桂駅を過ぎた。

 そして、地下道に入って、烏丸駅、そして、京都河原町駅に着いた。

「キヨテル」

「もう少し、京都を歩かない?」

「ええ」

「いや、大阪に帰ったら、ご馳走するから」

「そうかな?」

「そうだよ」

 京都河原町駅からは、準急天下茶屋行きが、発車していた。

 そして、撮り鉄が、スマホで数枚、写真を撮っていた。

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