第2話
阪急京都本線の淡路駅の「淡路」の由来は、菅原道真が、「ここが、淡路か」と勘違いをしたのが、由来だったとか。
電車は、淡路駅を出た。
一方、対向車線は、大阪メトロ堺筋線の天下茶屋方面に電車が、出発した。特急京都河原町行きは、これから、茨木市駅に向かっている。
また、関西大学がある北千里方面にも電車が、ゆっくり出発していた。
ミツキは、少しだけ、スマホのLINEの着信を確認していた。
そして、電車は、大阪市内の小学校やら中学校やら、会社の建物やら病院の建物が見えてきた。
そして、東海道新幹線が見えてきた。
青色の流線型の車両が、東京へ向かっている。
「今日はさ、河原町に着いたら、少しは、京都の街を歩こうよ」
とミツキは、言った。
「ええ、すぐに帰るんだ」
「今日さ」
「うん」
「私の言うこと聞いたら、帰り、ご馳走するから」
と言った。
「何をご馳走するの?」
「梅田か十三で、ご馳走するよ」
「何を?」
「ナイショ」
と言った。
実は、キヨテルは、ミツキと付き合ってもう2年が経過する。最初は、LINEするのも、戸惑っていたが、今では、何とか絵文字を使ったり、デコレーション用のスタンプも使うことができた。
「実はさ」
「うん」
「俺ってさ」
「うん」
「電車の運転士になりたいと思っていたんだぁ」
「へぇ、すごいじゃない」
「だけどさ」
「小学校の時、眼科の色弱検査で、引っかかって、<電車の運転士>とか<パイロット>になれない、なんて言われたんだ」
「可哀想」
「それで、大学を出てから、生命保険株式会社に就職したけど、今度は、身体を悪くして、入院して、手術をしたんだ」
「へぇ」
「それで、それまで営業だったのが、総務課に配置換えになって、給料も下がったんだ」と身の上の話をした。
そうだ、キヨテルは、野球選手になるのは、小学校の時、体育の授業で、挫折をして諦めたが、中学校や高校に通学していた時は、短距離が早かった。200m走では、一位になっていた。
そして、大学生の時は、ダンスをサークルで習っていた。
ただ、と思った。
本当は、今でも、YouTubeとかTikTokとかで音楽を聴くけど、実は、Mr.Childrenやいきものがかり、yoasobi、米津玄師なんて好きで、一人でアパートで歌っていた。仕事場への行き帰りは、いきものがかりの『ブルーバード』をよく歌っていた。そして、歌手になりたいなんて、ずっと思っていた。
だけど、一方で、東京での人の多さに疲れ、少し、東京よりもゆったりしている大阪に来ていた、いつの間にか。
そんな事を、キヨテルは、一人で物思いにふけっていた。
電車は、いつしか茨木市駅に近づいている。
「さっきから、キヨテルは、ずっと何かを考えていたね」
「うん」
「何を考えていたの?」
「歌手になりたかった、なんて」
「私は、恥ずかしくて歌えないよ、聴くことはできるけど、音楽の授業は、嫌いだったね、歌わなかったから」
ミツキは、身体は、がっちりしていて体育の授業が、好きで、勉強なんてできなかった。部活は、バスケットボール部とバレーボール部だった。しかし、ミツキだって、20代になって、運動をしていて、怪我をして、整形外科に入院して、会社では、異動になった。
そして、
「茨木市駅には、川端康成の記念館があるんだぜ」
とキヨテルは、言った。
「ねえ」
「何?」
「行ってみたいな、川端康成記念館に」
と言って、茨木市駅で、電車を降りた。
閑静な住宅街だった。
緑も綺麗だった。
駅の近所には、茨木市役所もあった。
「昔は、茨木市に、川端康成が、いたって、言うけど、どんな感じだったのかなぁ?」
「さあ、田んぼが、多かったんじゃないか」
と言った。
川端康成記念館に着いた。
二人は、文豪の文字を見てみた。
そもそも、読めない。
「昔の作家さんって、字が読めないね」
「だろうな」
「頭の回転が速すぎて、字を書くスピードに追い付かなかったんじゃないか、と思うわ」
「そう思う」
川端康成は、親は、町医者だったらしいが、早くに死別した。そして、そこには、川端康成のパネルがあって、その時代に発刊された雑誌やら書籍が置いていた。
「オレら、国語の授業でしか知らないけど、こんなところまで観なかったな」
「私は、文学部で、国文学が専攻だったから、大学図書館へ原稿をコピーしたことがあったよ」
何分かいて、記念館を後にした。そして、川端康成は、同じ大阪出身の小説家織田作之助をかなり批判していたとかあった。
「昔ならさ」
「うん」
「川端康成って、タレントみたいなものだったんじゃないか」
「そう思う」
「今の時代は、そんなに本が売れないけど、昔は、凄かったなぁと思う」
「だって、茨木市の名誉市民になっているもんな」
と言った。
そして、二人は、茨木市駅で、たこ焼きを食べて、再び、阪急京都本線の特急に乗った。空は、晴れて、まだ寒かった。
その時、キヨテルは、ミツキと手を繋いだ。
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