{第二章}血戦②   活火山を一掬いできたなら、どんな香りがするのだろう

{第二章}血戦②




 


 (どうしてこうなった…)


そこには、大原女の家の前に佇む俺の姿があった。凌三高校から俺の家へ向かうルートの交差点の手前で、左に曲がると彼女の見るからに高そうな4階建てマンションがあった。


「さ、ここよ」


光彩認証を解除しゲートを開く大原女。なんでこんな平然としているのだろうか。


「お、おいお前、一応まだ放課後じゃないけど勝手に学校出て良いのか?」


「この学校ってかなり雑なのよ。あんたのクラスへの転入も、朝校長に掛け合ったら二つ返事で承諾してくれたわ。多分半分くらい出席してれば進級はできるんじゃないかしら」


それを聞いて俺は愕然とする。


(確かにCCCなる明らかにヤバい集団が放置されてた位だし、そんなものなのか)


この学校のぶっ飛び具合にも慣れてきた。慣れたら変人コースまっしぐらだと思うが。


「にしても、この家でかいな。何人で住んでんだ?お姉さんはいるとして」


不思議そうにこちらを見る大原女。


「マンションなんだから一人に決まってるじゃない」


(こいつ、さてはお嬢様だな)


庶民から大きく乖離したその感覚はいったんスルーとして


「てことは、お前ここの生まれじゃないのか」


「ええ、新潟から来たの。凌三の生徒の過半数以上は県外から来てるわよ。だから鬼才が集まるの。さあおしゃべりはこれくらいにして、さっさと行くわよ」


「入る前に一つ」


「手短にね」


「お前、一人暮らしの家に曲がりなりにも男入れて良いのか?」


こいつは多分生まれの良さからあらゆる情報にシャッターが掛けられていたのだろう。あまりに近い距離感も、その穢れの無さ故なのだろうか。


「別に良いじゃない。何かあるの?」


案の定男女のあれこれについてを考えるほどの知識が無いようだった。


「まあ、いいや。いずれお前にも分かる時が来る。とにかく俺以外の男は入れんな」


憐みの目線を向けながら大原女の肩を叩き、一応警告もしてやる優しい俺。


「ちょっ、なんなのよ!教えなさいよ!」


大原女の追及を無視し、部屋に入っていくのであった。






 「広いな…」


そこには3LDKぐらいはありそうな、部屋を持て余しまくっているご様子の部屋があった。テレビにソファにベッドにパソコン。キッチンは使われた痕跡が無く、殺風景な、モデルルームを見ているようだった。


「あんた、何食いたい?」


ツインテールを邪魔にならないようにポニテに直す大原女。


「お前、絶対に料理したことないだろ」


大原女は図星の顔をしつつ、聞かなかったことにして準備を始める。


「ご飯は炊いてあるから、カレーで良いわよね?」


「ああ、カレーならミスりようが無いしな。テレビつけるぞ」


こいつに無理に食い下がることの無意味さを身に沁みて分かってきたので、ここはスルー。


ちょうどヒ〇ナンデスがやっていたので、懐かしさを嚙み締めつつ、無心で眺める。


ゴゴっゴゴゴゴゴ!


(工事の音か。やけに近いところでしてるんだな)


バリバリバリ!バリリリリィ!


(今度のは明らかにおかしいぞ!)


不審に思って大原女の方を見ると、包丁からどうしたらそんな音が出るのか分からないが、人参を木っ端微塵にしている奴の姿があった。


「お前!何してんだよ!」


「だ、だって力加減が分からなくて!」


「加減どころの話じゃないだろ!良いから退いとけ!」


事件現場のようになっていたキッチンに俺が行き、大原女から包丁を簒奪しようと試みる。


「いや!私がやるの!」


「ガキかお前は!良いからよこ、あっぶな!」


大原女が振り回した包丁が俺の頬をかすめる。


こいつの脳内取説に、やっていることを邪魔されるとキレる。と追加しつつ、懐柔策を思いつく。


「じゃあ、俺が加減を教えてやるからほら、一回深呼吸だ」


「スーハー、スーハー」


「よしじゃあ後ろ行くから、振り回すなよ」


「分かってるわよ」


爆弾処理をするような足取りで俺は大原女の背後に行き大原女の手の上から包丁を握る。


「ホラ。こうやってやれば普通に切れるだろ」


こいつの手を暴走しないようにガッツリ掴みつつ具材を切っていく。こうすればこいつはキレないと踏んだが、正解だったな。なんか大人しすぎるような気もするが。


「おい、聞いてんのか」


ちっこい大原女の顔を覗き込む。


「あんたって、その、不健康そうな体なのに意外とがっしりしてるなって思って」


いつになくしおらしい大原女。いつもはこいつから近づいてくるのに、近づかれることには慣れてないみたいだ。これは大きな収穫かもしれない。


「ああ、一応ガキの時はサッカーしてたしな」


それも何年前だろうか。


「へえ、今のあんたから想像できないわ。なんでやめちゃったの?」


「それは、言いたくないな」


俺の手が止まり、大原女がこちらの表情を伺ってくる。


「…そう、誰にでも隠したい過去はあるものね」


何かを察した大原女が気休めのように呟く。俺は、どんな顔をしていたのだろうか。


そこからは、俺らにしては珍しく静かに作業をした。そして大原女と食卓を囲みながら、学校のあれこれと、今後の方針を聞き、今日は解散することになった。






 家に着き、今日大原女に言われたことを整理する。この学校は所属人数に応じて部活の階級が上がるシステムがあるらしく、上から甲、乙、丙、丁となっているらしい。それぞれの詳細は、学校のアプリに校則として載っており、こんな風になっていた。


其の二、部への所属人数で甲乙丙丁と等級が決まる。


甲・三十人以上で校則審査会での拒否権と血戦の強制開始権を有す


乙・十人以上で部室の所有、改修、又校則審査会への校則草案提出権を有す


丙・五人以上で正式な部となり、部活棟使用の優先権を有す


丁・五人未満では前記の権利を有せず


 


 と、書かれており、血戦の厳重な取り締まりをしている翼賛会というのも、この学校に二つしか無い甲のれっきとした部活であり、翼賛部で無いのは、格の違いを見せつけるためだそうだ。ちなみに昨日大原女が解散させたCCCは丙に属していいたらしい。


(というか、校則少なすぎだろ…)


十個ほどしかない校則のほとんどは部活と血戦の規定に割かれており、通常の学校生活に関わる制約は無いに等しいどころか、存在していなかった。


(ん?)


俺は校則で気になった点があったので、大原女にメッセージを送ってみる。


すると、すぐに大原女からの返信というかボイスメッセージが届く。打つのがだるいのでボイスメッセージでやり取りをするそうだ。


「あんたお手柄じゃない!明日は絶対に私と学校に行くわよ!八時集合時間厳守!」


と言いメッセージは終わった。


(そんなに重大なことだったのかこれ)


俺は再びスマホに写るある校則に目を向けた。


其の六、次期頭取は年内に現頭取が指名、もしくは選挙を行うものとする。単一の部に所属する者が生徒の過半数を占める場合、頭取と部長の合意の上、二陣営での一騎打ちも可能とす






 翌朝。昨晩の小雨の影響か、鏡のような雨粒が町全体を覆い、普段より彩度が幾分か上がって見えるようだった。世界が、綺麗であろうと努めているような、そんな気さえするほどに。


時刻は七時五十分。覚醒しきれない頭で俺は大原女の家に向かっていた。


(時間には余裕があるな)


軽快に飛ばし、五分前には大原女の家に着いた。遅刻をしたら何されるか分かったものでは無いからだ。


(ん?あいつ、何してるんだ?)


大原女が住むマンションの前で何やらスマホで自撮り?をしながら髪を直している大原女。準備する時間が無かったのだろうか。真ん前からの俺の接近にも気づかずに呑気なものだ。


「おい、なにしてんだよ。行くぞ」


俺は大原女に目もくれずこいつに合わせて自転車を降りて学校に向かおうとする。


「あ!あんた居たなら言いなさいよ!」


小走りで俺の隣に来る大原女。


「お前、朝時間が無いならもう少し遅くてもよかっただろ」


前髪を下ろしている大原女に俺は文句を言う。


「ちょ、違うわよ!私は十時に寝て六時に起きてるのよ?今のは、その、たまたま風で髪が変になっちゃったから直しただけで」


大原女の必死の反論。


「その生活習慣は、背を伸ばすたm、いや、なんでもない!」


ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ


回らない頭で余計な失言をしてしまう俺と、ツインテールをDNAのように交差させながらこちらに迫る大原女。


(本気でまずい…)


パターンCの観測に驚いてる場合じゃない俺は、適当に褒める作戦を開始。ラノベではこれがツンデレキャラに効いていた。


「そのー、お前、今日は前髪下ろしてるのな。可愛くていいと思うぞ!」


俺は距離をとりつつ早口で口をつく。


歩みを止める大原女。急に後ろを向きしゃがみ込む。


「お、おいどうしたんだよ」


「あ、あんた。本気でそう思ってる?」


(前髪のことか?)


「あ、ああだからあんま怒らずにな」


そう答えた途端、一気に大原女の怒気領域が消える。そしてこちらに顔を向けずに歩き出した。


(わ、分からん。これはもう怒ってないのか?)


そう思い顔を見ようと試みるが、絶対にこちらには向けない。危害を加えられないなら良いかと、俺も隣で歩みを始める。


「昨日のメッセージはなんだったんだよ」


「昨日あんたが送ってきた校則、“単一の部に所属する者が生徒の過半数を占める場合、頭取と部長の合意の上、二陣営での一騎打ちも可能とす”て部分が少なくとも私が入学するまで無かったのよ」


「どういうことだ?」


いつもならその綺麗な目で俺の目を見ながら話す大原女が、相変わらずそっぽを向いて話し始める。


「つまりね、校則審査会を経てなされるはずの校則の追加が、それを通さずに行われた。これが意味することは何か分かる?」


俺に振る大原女。こいつはなぜか先生ぶって他者に結論を振る癖があるんだよな。


「それを出来る人がただやったんじゃねえの」


「二十九点よ、歩」


「地味に赤点にするのやめろよ。じゃあお前はどう考えたんだ」


「あんた、私にこの学校をどうやって壊すのかって言ってきたわよね」


「ああ、お前がノープランで驚いたな」


「そう、正直に言うと、私もどうすればいいのか具体的なプランがある訳じゃなかったの。なのにこの項目が、私が入学してから追加された。都合が良すぎるとは思わないかしら?」


大原女の推論を聞く俺の脳裏には、すぐにこいつの姉さんの事が思い浮かんだ。その俺の考えを見透かしたように大原女が発言する。


「姉では、ないはずよ。昨日のCCCとの騒動で誰か権力を持った私の事情を知っているかもしれない、姉に近いけど姉に忠義がある訳ではない人物だと私は踏んでるわ」


「その線も、考えられるな」


「ええ」


しばしの沈黙。姉が関係していることについて語るこいつの目はひどく沈んでいて、普段の輝きを失っていた。だが、こいつは切り替えの鬼だ。


「まあなんにせよ、これではっきりしたわね。あたしらは血戦で勝って勝って勝ちまくって、全校生徒の半分、百八十人を革命結社の部に入れさせてしまえば姉と直接対決が出来るってことよ!頑張るわよ!歩!」


「俺はまだ正式に手伝う訳ではないけどな」


これは、言っとかなければ駄目だろう。今でも俺は、平穏な暮らしを望み続けている。


「そこは理解しているわ。だけどあんたには、上手く言えないけど運命を感じたの」


大原女は、そらし続けていた顔をこちらに向け、ライフルのようにまっすぐ、俺を打ち抜く。


(ほんと、ずるい奴だよなこいつは。こいつの数々の不条理も、この目を見るだけで、なぜか許せてしまうんだ)


今度は俺が目を逸らしながら


「おだてても無駄だぞ。負けたらこの関係も終わりだ」


「今はそれでも良いわ。でもあんたはね、絶対に最後は私の隣にいるはずよ」


「何を根拠に…」


俺の言葉を無視して大原女は走り出す。


「お、おい!」


「とりあえず私が最初に血戦をする部を見つけるから、あんたは今日帰っても良いわよ。手伝いたいなら、手伝ってもいいけど」


大原女からの神のような申し入れ。受け入れない手は無い。


「いや、もちろん帰る。一人で頑張れよ」


「…あんたならそう言うと思ったわ」


なぜか不機嫌になる大原女。


そのまま大原女はこっちを振り返らず、走り去ってしまった。


 




 凌三高校は一般高校のような授業をしない。週に五日6時間目まであり、各授業は四十五分しかなく先生はあくまでのその補助。こんなんで大丈夫かと不安になるかも知れないが、参考書を中心とした受験知識をダイレクトに詰め込むような授業スタイルは、頗る効率がいいし、すぐに帰れるので不満は無い。生徒一人が主導となってこの高校の学習指針を作り上げたという噂すらあるらしい。そのおかげで、去年の進学実績は鰻登りに改善したんだとか。


(こいつの姉さんってやっぱとんでもない奴だよな)


と、世界史の善悪二元論がうんたらかんたらを聞きながら隣に目をやると、授業なんてお構いなしにパソコンで恐らく初回の血戦相手のリストを作っている大原女が目に入った。


(やっぱり黙ってると最高に可愛いのだがな)


と、参考書を解き切った俺が見ているとそれに気づいたのか大原女がこちらを見てくる。


「な、なによ」


不機嫌モードが若干継続してるらしい大原女が作業を中断してこちらに尋ねる。


「いや、順調なのかとね」


「あんたはフランチャイズ店に来る本部のお偉いさんなの?」


なかなかキレのあるツッコミをする大原女。


「まあ、そうね。なんせ負けたら一か月の部活停止になるんだから慎重に越したことは無いわ」


「え、そうなのか」


「あんた、校則昨日見たんじゃないの」


「うん、あったような気がする」


「適当すぎよ」


静かに笑う大原女。心臓に悪い。しかし今はそんな事より一か月の部活停止のほうが重要だ。


負けたら部を抜けられるだけでなくて万が一こいつが食い下がっても、一か月は何もできないのだ。


(お得すぎる…)


「手、抜いたら駄目だからね。私、分かるから」


作業を再開した大原女が釘を刺す。


(どうせ俺をビビらすためのほら吹きだろう)


「俺がする訳ないだろう」


「したら、スマホ」


「………」


その一言で俺は全力でやらざるを得なくなった。やはり悪魔だ。


「昼は私、用があるから一人で過ごしなさい」


用が無い場合はこいつと過ごすのかとか友達がいないと思われているのかと考え、俺が反論しようとした瞬間、


「そこの二人、授業中です。静かにしてください」


と、学級長である明星葵の澄み渡る声が響くのであった。教室ではまた、ヒソヒソと噂をする声が聞こえた。その声に少し不快になり、俺は、ラノベを片手に二次元の世界に入り込んだ。


  




 十二時過ぎに授業が終わり、俺は豪と圭の三人で食堂に行き、食後に外をプラプラ散歩をしていた。南中高度が最大になり紫外線が肌を刺す。しかし春の紫外線は機嫌が良いので心地良い。


「うむ、なかなかの味だったな。我が絶舌ぜつぜつも喜んでいたぞ」


相変わらず何を言ってるか分からず舌を出す圭に、


「あの食堂はどのくらいの人間が入れるんだ?一万人ぐらいは入れそうじゃないか?」


と馬鹿丸出しの発言をする豪。俺には二人も友達がいるのだ。誇っていいだろう。


こいつらが難関らしいここを突破したのが不思議でならないが、まあどうでも良いか。


「おい、なにか、鳥がざわめいていないか?我の神耳しんじが囁いているぞ」


周囲を警戒するように見渡す圭。幻聴が聞こえるなんてもうこいつも手遅れかも知れない。 


「確かにあっちの方に人が集まってる気がするぞ!イベントか?」


集団幻覚にかかったと思って一瞬焦ったが、どうやら騒ぎがあるのは本当らしい。


「興味ないからもd」


「行くぞ!歩!お祭りだ!」


「うむ。天が囁いている」


バカ二人に手を引かれて強制的にグラウンドの方に連れていかれた俺は、異様な光景を目にした。






(竹馬とセグウェイと一輪車…?)


 三つの移動手段に乗って男女三人がグラウンドの200メートルトラックで競争しあってた。それを取り巻く観客たちもとても盛り上がっているようだ。しかもあそこ、なんか賭けしてないか?それすらも許されるのか。


「これはいったい何なんだよ」


二人に尋ねたが返事は無い。よく見ると観客の中に混ざり応援していた。とんでもない適応力だ。どこからその力は湧いてくるんだ。


呆れていると、竹馬に乗った五分刈りのいかつい男の咆哮が聞こえる。どうやら勝ったみたいだ。皆が集まっている。胴上げまでするのか。


(図書室にでも行くか)


と本棟に戻ろうとすると、急に視界が暗転し、金木犀の芳醇な香りが俺を強制的にその場に釘付けにさせた。






 「だーれだ」


声を低くしてはいるが、アニメ声が特徴的過ぎてバレバレだぞ。機嫌は治ったらしいが。


「何の用だよ」


「だーれだ」


答えなきゃダメなのか。


「大原女」


「せいかーい!」


俺が振り向くと、昭和のような体操着の大原女がこちらを見ていた。ブルマで無いのが救いか。


「…………」


「ちょっと…」


俺の意識が止まりかける。


「ちょ、ジロジロ禁止!」


胸と足をとっさに隠し赤面しながら咲はこちらに警戒の表情を向けてくる。


その言葉で意識を取り戻す俺。


「ああ、すまん。そのあまりにラノベ展開すぎて」


「何意味わかんないこと言ってんのよ」


自分でも意味不明な言い訳をしつつ平静を装う。


「それで、なんだその恰好」


(目の毒すぎるから勘弁してくれ)


「ちょっと広報の人に新しい体操服のモデルをやってくれないかって頼まれちゃって、ってそんなことはどうでも良いの!」


一気に仕切り屋モードに入る大原女。


「あんた、あのグラウンド見てたでしょ」


「見てたってか見せられたってか、まあどっちでもいいか」


「目の付け所が良いわよ。多分あの後に、私があんたに見せたいこの学校の暗部が見れると思うわ。だから行くわよ」


「行くってその恰好でか」


特に深い意味はないがあまり他人には見せたくない俺が渋ると何を思ったか咲は赤面し始める。


「あ、あんたそ、そそれどういう意味よ!」


「た、他意はないぞ!ただ皆の目の毒だって話だ」


自分の恰好を見回しながら大原女は言葉を振り絞る。


「あ、あんたってこういうのが好きなの?」


大原女は噴火寸前の活火山みたくなりながら尋ねてくる。


「…」


俺が何も返さずいるとそれをどう解釈したのか知らんが更にツインテールをM字にさせる大原女。


「いったん落ち着いて、とりあえずこれ着とけよ」


四月とはいえまだ肌寒いので、着ていたパーカーを大原女に渡す。明らかにオーバーサイズだがまあいいだろう。


「あ、ありがとう」


完全に普段の立場と逆になってしまった俺が、しょうがなく大原女をグラウンドの騒ぎの中心地へ連れていく。






 そこに来ると、さっきまでのお祭りモードから一転して、さっきの乗り物三人衆と白の学生帽を被った三人が、一触即発のムードを漂わせていた。


ようやく本調子を取り戻したらしい大原女が俺に解説をし始める。


「歩。昨日のCCCの発言覚えてる?」


「ああ、確か翼賛会がお前の姉さんが後ろに付いてるのを良いことに血戦とかを厳しく取り締まってるんだっけか」


「そうよ、そしてあの白い学生帽を被った奴らがその翼賛会の下っ端。この学校の最高ヒエラルキーに位置している甲の肩書を持った、姉が作りだした歪みよ」


非常に憎らしいような響きを持った言葉は、麗らかな春にそぐわない、上滑りするような響きがした。緊張状態を打ち破るかのように、翼賛会の面々が、動き出した。


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