第5話 確認

「さて……じゃあまずは俺がスティールして敵から逃げるから、追いかける敵を符術で攻撃してくれ」


 ヴェルネの装備を一新し――符術師は基本武器を使わないので、ローブと帽子、それにアクセサリー類――俺は彼女と町から少し離れた荒野の狩場へとやって来ていた。


 アレスワールドのパーティーは最大5人。なのでまだ3人分メンバーが空いているので、引き続きメンバー探しは続けないといけない。2人で安全にクリアとか、流石に難しいからな。空きがある状態で狩に来たのは、彼女の力量をざっくり確認するためだ。


「ええ、分かったわ」


 狙う敵はレッドウルフ。レベル55のモンスターで、耐久力は低いが、その反面攻撃力とスピードが高いタイプの魔物となっている。まずは俺がスティールを決めてタゲを取り、そのまま逃走。そしてそんな俺を追いかけるウルフをヴェルネに攻撃してもらう。


 因みに、スティールは敵意ヘイトがくっそ高いので、余程手古摺らない限りはヴェルネの方にタゲが移る心配はない。


「ぐるるるる……」


 単独のレッドウルフに近付くと、威嚇の唸り声が飛んでくる。が、それを無視して近づいても攻撃を仕掛けてこない。ノンアクティブだからだ。


 ノンアクティブとは、こちらから攻撃などの敵対攻撃を仕掛けない限り襲ってこない魔物を指す。因みにスティールは敵対行動——成否関係なく――に含まれるので、使った時点で襲われる事になる。


「スティール!」


 スティールの間合いは1メートルほど。成功率はレベルかける10%で、最大レベルの10まで上げると絶対に成功する仕様だ。まあ俺はスキルポイント節約のため、レベル1で止めてる訳だが……全く問題ない。キャラメイクで成功率を引き上げる特殊スキルを習得しているので、その効果で成功率は100%になってるからな。


「いいぞ!」


 スティールが成功し、合図の声を出すと同時に俺はバックジャンプ。そして――


「ぐおおおお!!」


「鬼さん、こちらーと」


 ――レッドウルフの方を向いたまま、後ろ向きに駆け出す。


 後ろ向き走りが得意なのか? もちろんそんな事はない。前を向いて走った方が断然早い。後ろ向きで走っているのは、ヴェルネの攻撃をしっかり見る為だ。魔法使い系として重要な要素、命中力を確認するために。


 いくら火力があっても外しまくったり、あまつさえ仲間にぶつける様なら使い物にならないからな。


 え? 確認するために見るのはいいけど、追いつかれるんじゃないか?


 大丈夫大丈夫。シーフは素早さ極ぶりみたいなステータスをしている上に、装備に速度アップオプションまで付けてるからな。スピード自慢のレッドウルフ相手だろうと、後ろ走りで余裕だ。


「おお、やるなぁ」


 俺を追いかけるレッドウルフに、次々と符術がヒットしていく。5発中5発。その命中率は100%だ。全力疾走してるレッドウルフ相手に、狙う時間をとらず的中させるとか、その命中精度は間違いなく一級品と言えるだろう。


「つうかこの連射速度……ヴェルネはあのユニークスキル持ちか」


 勧誘した時点では魔法使いの代替品って感覚だったが、あのスキルがあるなら思ったよりいい拾いものをした事になる。こいつはついてるぜ。


「ぎゅおおおお……」


 符術が7発ヒットした所で、レッドウルフが断末魔と共に消滅する。


 今回ヴェルネが使ったのは中級符術だ。その際に消費する魔符は中級魔符で、価格は500クレカ(お金の単位)。7発撃ったので経費は3,500c。そしてレッドウルフのドロップである魔石の買取価格は2,500c。見事にマイナス1,000c赤字だ。


 まあ一応レアドロップもあるので、7発なら期待値的にギリギリ赤字にならない感じかな。とは言え、儲けは雀の涙程度。そんな収支でヴェルネは今まで頑張ってきた訳である。不憫極まりない話だ。


 因みに、スティールで手に入ったレッドウルフの牙は5,000cで買い取ってもらえるので、それもこみなら余裕で黒字である。


「あの速度で動くい当てに100発100中とか、大した腕だな」


 ヴェルネと合流し、称賛の声をかける。これはゴマすりなどではなく、心からの言葉だ。


「まあ、ソロだと攻撃を外すのはリスクが高いし……何より、外したらその分赤字になる訳だからね。自然と当てるのは美味くなったわ」


 ヴェルネがそう言って笑う。

 貧乏だから成長した。こういうのもハングリー精神に当てはまるんだろうか?


「にしても……【クイック】のスキルを持ってるとはな」

「あはは。ばれた?」

「あの速度で符術連打すれば嫌でも気づくさ」


 ユニークスキル【クイック】。それはスキルや魔法の再使用までの待機時間――クールタイムを半減させるスキルだ。これの有無で、瞬間火力には大きな差が出る。特に。詠唱自体のない符術ではその影響が顕著だ。


「じゃあ次に行こうか。次は引っ張るんじゃなくて近距離で牽制するから、その状態で隙を見て攻撃してくれ」

「分かったわ」


 味方が敵に肉薄している状態で上手く遠距離攻撃を当てるのは、なかなか難しい。単純な命中率もそうだが、爆発なんかの影響範囲も頭に入れて攻撃しないといけないからな。


 俺は二匹目のレッドウルフを見つけ、次のテストを行う。

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