第4話 成立
ヴェルネは代々冒険者の血統である。祖父は偉大な冒険者として知られており、彼女の父親も一角の人物だったそうだ。だがこの二人はもう既に亡くなっている。詳細までは把握していないが、親子そろって魔王によって殺されてしまっている様だった。
その事からヴェルネは、魔王討伐を目標に掲げて冒険者活動を行っている。父と祖父の仇を取るために。
彼女が今の貧乏生活を強いられてまでレベル上げを行っているのも、そのせいだ。でなきゃ、冒険者なんてとっくに辞めているだろう。普通に生活した方がいい暮らし出来るのに、魔物と闘う馬鹿はいないからな。
「本当に……そんな事が可能だと思っているの?」
それまで無視をしていたヴェルネが食事を辞め、俺に問いかけて来た。やはり魔王討伐は効いた様だ。
「さあな。けど……このまま汚名を帰せられて生きていく位なら、俺は死んだほうがましだって考えてるよ」
もちろんこれは嘘だ。死ぬつもりなどさらさらない。俺が目指すのは、このゲームの完全攻略のみである。
なら、何故それを口にしないのか?
明確な根拠を示せない自信満々の言動より、悲壮感を漂わせた方がヴェルネの心に響くと思ったからさ。彼女は届きもしない夢——符術師がソロで魔王討伐何て絶対無理――に向かって突き進んでるからな。同じような境遇の方が、シンパシーを受けてくれると踏んだ訳である。
だいたい、ここがゲーム世界で、俺がやり込んだプレイヤー何て言っても頭がおかしいと取られるけだしな……
「……」
俺の言葉にヴェルネが考え込む。もう一押しかな。いや、ここは一旦待とう。なんでも畳みかければいい訳ではない。“間”というのは、どういう状況においても必要な物である。
「貴方が今言った言葉が本気なら……確かに組む価値はあるわね。でも、それをどう私に信じろと?」
気持が決まったのか、ヴェルネがそう尋ねて来る。ここまでくればもうかったも同然である。心の中で俺はガッツポーズする。
「そうだな……まずは俺の全財産をパーティーに投資する」
「全財産をパーティーに投資?」
「そう、俺達のパーティ―にだ。実は……俺は勇者パーティーから抜ける際、パーティー資金の全てを俺は退職金として貰ってる。平均レベル60代の、しかも俺って言う金策ありのパーティ―の資金の全額だ」
これは嘘ではない。パーティーの金は俺が管理していて、俺を追い出すならこれは全部頂くぞって脅したら、『わかった持っていけ』って流れで全額俺の懐に入ってきている。
あの時点では『金がなくなって精々困窮しろ』なんて俺は思っていた訳だが……今思うと、エステス教会から支援を受けるからパーティー資金位どうって事なかっただけっていう落ちだったわけである。ほんと、腹立たしい話だ。
「ハッキリ言って、この金があれば俺は一生遊んで暮らす事も出来る。でもそうはしない。何故なら……俺の手で魔王を倒し、あいつらを見返すためだ。因みに金額は――」
「!?」
腕輪状の、多機能な冒険者証を弄って口座残額をヴェルネに提示する。その金額を見た瞬間、驚きから彼女の両目が飛び出た。比喩表現ではなく、漫画みたいに物理的に。
普通の人間じゃ無理な技だが、ここはゲーム世界だからな。そういうのもありってわけだ。
「ここここ、これを全額私に?」
「まあそうだな。一応パーティー資金だから、私的に使うのはある程度制限させて貰うけど……魔符代に関しては全部ここからだ」
流石に、高価な宝石とか買い漁られてはかなわんからな。
「魔王討伐の資金を無駄遣いする気はないわ。けど……」
ヴェルネが再び考え込む。冗談でつぎ込むには、提示した金額は大金だ。だが、それだけで本当に俺の事を信じていいのだろうか? って迷ってるって所だろう。疑り深い奴である。
「とりあえず……一旦俺と組んでみないか?一緒に活動して、その上で俺が思ったような奴じゃないと感じたら………その時は抜けてくれていいから。俺とのパーティーを抜けても、お前はまた元のソロに戻るだけだし、そんなに難しく考える必要はないだろ?」
「それは……」
「それとも……悪評のある俺と、お試しでも組むのはいやか?こういっちゃなんだけど、君の評判も相当なもんだぞ。俺と組んで評判を気にする様な状態じゃないだろ?」
「……」
悪い噂の生で俺の評判は終わっている。が、そもそもヴェルネの評判も似たり寄ったりだ。なにせ魔王討伐を掲げて、符術師で延々貧乏ソロしてるわけだからな。周りから見れば完全に気狂いである。俺もそう思ってたからこそ、彼女の勧誘は最後の最後に回したわけだし。
え? 『お前評判悪いぞ』なんて悪口言われたら、ヴェルネがブチ切れて話が流れるんじゃ?
それは多分ない。周りから後ろ指刺されてることは本人も認識してるはずだし、その程度で切れる人間なら、根気強く符術師のソロなんて続けられてるわけがないからな。
「そうね……あなたの言う通りだわ。わかった、貴方と組みます」
「決心してくれてありがとう」
「じゃ、これは遠慮なくいただくわね」
ヴェルネが俺の差し出したトレーを自分の前まで引き寄せ、その上にのる飯を凄い勢いで食べ始めた。これで契約成立。取り敢えず一歩前進だな。
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