第5.9話 覚醒前夜
ーーー「済まないが…ダチの為に必要なんだ。悪く思うなよ?」ノルトンは看護師の変異してしまった腕をナイフで切り取り呟く。そして、ノルトンは切り取った腕を持ち上げた。「よいしょ、ふぅ…にしても、重いなぁこれ」ノルトンはリアムの使い物にならなくなった腕の代わりにする為に変異してしまった看護師の腕を取りに来ていたのだ。
ノルトンはその不自然に大きくて異形の腕を慎重に抱えながら、病院内を歩いていた。腕の重さに少し息が上がり、力を入れて運ぶ度に思わず眉をひそめた。変異した腕は、見た目こそ不気味で、正直なところ触れるのさえ嫌なほどだったが、今はそれしかリアムを助ける方法がなかった。
「こんなものが本当に役立つのか…」ノルトンは小声でつぶやきながら、何度も腕を持ち替えた。その腕をリアムに使わせることになるのかと思うと、気が重くなるが、どうしても他に方法が見当たらなかった。リアムの右腕はもう、動かせる状態ではなくなっている。彼が生き延びるためには、今の選択肢が最良だという思いだけがノルトンを支えていた。
手術室に戻り、ノルトンは腕を机に置いて息を整えた。医者はまだ手術の準備をしているところだったが、その表情にはまだ若干の困惑が見え隠れしていた。ノルトンが持ってきたものを見て、医者は少し驚きの表情を浮かべた。
「…これ、どうするつもりだ?」医者はその異形の腕を見て、再び深いため息をついた。「君がこれを使わせようとしているのはわかるが、あまりにも…予想外だ。」
ノルトンは肩をすくめながら言った。「やるしかないだろ。これでリアムの命が助かるなら、どんな方法でも試す価値がある。」
医者はしばらく黙って腕を見つめ、やがて決心したようにうなずいた。「わかった。だが、この腕がうまく機能するかどうかはわからない。恐らく、機能的に異常をきたすかもしれない。それを踏まえてもいいのか?」
「それでもいい。」ノルトンの答えは力強かった。「彼が生きてさえいれば、それでいいんだ。」
医者は深く息を吸い込み、腕を手に取りながら慎重に言った。「じゃあ、これをどうやって取り付けるかが問題だな。」
ノルトンは少し黙ってから、決意を込めて言った。「手術を始めよう。時間がない。」
医者は頷き、手術を再開した。ノルトンは隣で、手術のサポートをしながら、心の中でただひたすらに祈っていた。リアムが無事に回復し、この非現実的な状況を乗り越えることができるように。
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