第3話 クソッタレ!
通気孔を数十分間も進み続けた後、俺はようやく医療区域の精神療養エリアのマップを作り終えた。成人男性が入るには通路は狭く、痩せ気味の俺でもギリギリはいるかどうか分からないくらいだった。薄給で食事すらもまともにとれなかったことにここで感謝することになるとは少し複雑な気分だ。感染者(仮)に見つからないように静かにすすむ作業は俺のブラック企業時代で培った集中力と気力をかなり消耗したが、その地獄もようわく終わりそうだ。
ようやく作業が完了すると肩の力を抜き、深いため息をつく。通気孔を抜けて外の世界に戻るその一歩は、達成感とこんな緊急事態に慌てず対処できた自分への称賛で軽くなっていた。こんなときにビールでもあったらよかったのだが…。次に何が待っているのかは分からないから、警戒は怠っちゃダメだな と浮かれている自分を叱責しつつも俺は仕事成果のマップを握りしめ足早に狭い通路を逆走した。
「よ、ようやく出れた....」そう、俺はついにあの狭くて臭くておまけに暗いまるでケツの穴みたいな場所からおさらばできたのだ。あれ、ケツの穴から出できたってことは俺ってうんこじゃね?とも思ったが、考えるだけ無駄だと思い、考えるのをやめた。
「ーッ」
背後に嫌な気配がすると同時に足音が近づいてくる。こんなとこでくたばるにはいかない… 俺は後ろを振り返ることすらせずにただ逃げることに集中して走った。しかし、ふと自分の部屋の前に立ち、手を見てもカードキーはない。ポケットなどを無造作に確かめたがそれらしきものはなにもない。こんなことしてる間にも化け物の魔の手が迫ってきているのに…クソッタレが。
俺は決心し、臨戦態勢で背後を振り向いた。こうなればやけくそだ。「目にもの見せてやる…。この乳でか女!」
ーーー背後の扉が開いた音がし、誰かの手が俺を抱いて部屋に引きずり込む。
(何が起きたんだ…?そもそも後ろに扉なんてないはずだ…)
必死に思考を巡らすが、答えはいっこうに出てこない。
「危なかったなぁ?。兄弟。これは貸しだぜ?、なんてな。」
俺を部屋にいれたと思われる男が茶化すように言う。細かいことが頭から全部吹き飛び、生存者は俺だけじゃないと喜びで頭が満たされ言葉がうまく紡ぎ出せない。「こっ…こんなとこに扉なんてなかったはずだろ?。そもそもお前は誰だ?。なんで俺を助ー」
高速で紡がれていく言葉にうんざりしたのか男が俺の口を塞ぐ。
「おいおい、助けてもらった相手に礼がないぜ?。それに声がデカすぎだ、乳のでかいナースに食われたい性癖でもあるのか?。少なくとも俺はごめんだね。」
口調は腹立つが、言ってることは真っ当だ。その男に礼と謝罪の意を伝え。最低限の声で会話を続けていく。
「まずはお互い自己紹介だな。俺の名前はリアム、設計士だ。」「俺の名前はノルトン、ハッカーだ、よろしくなbro!」
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