野原
懐かしい音楽と懐かしい心地が、俺の内部に満ちていた。俺は、野原に立っていた。セイタカアワダチソウとススキが競ってその花や穂を咲かせている、そのただ中に。
天国とは、このような所かも知れない。そんな妄想にふけりながらも、俺は何か恐ろしい気分も、少しばかり、感じていた。──ここには、現世と常世の、どちらとも言いがたい空気に満ちている。
少年であった頃の、ゆったりとした倦怠が、再び俺をおそいはじめた。一生、午後三時が続いていく──俺は、時間を失いつつあった。
懐かしい言葉と懐かしい感情が、俺の内部を支配していた。俺は、ひとつの言葉をくり返し、呟いていた。『さびしくない、さびしくない』と。
永遠とは、こんな所にあるのかも知れない。それはとても恐ろしい非現実感だ。俺は、もう帰る場所がなくなっていることを、既に思い出しはじめていた。
コオロギが一面に鳴いていることに、
俺は今、はじめてはっきりと気が付いた。
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