第5話 変わらないもの
*
「コージ、お前告られたんだって」
「受験前なのに余裕だなー」
「ちげーよ!」
教室へ戻ると、クラスの男の子達が騒いでいた。
聞きたくなくても耳に入ってくる。
あの女の子達とコージくんのこと、誰か見てたのかな。
こういう噂って、なんですぐに広まるんだろう。
なんて思いながら、自分の席について、帰りの準備をはじめた。
なんか嫌だなぁ。
私の知らないコージくんがいるみたいで。
きっと、こうやって変わっていくんだろうな。
「ミチル。顔、暗くなってるよ」
まだ進路相談が終わっていないモモちゃんは、前の席に座っていて、私を覗き込んでくる。
「え?」
「よしよし、気になるよね」
「き、気にならないよ」
……嘘だけど。
私の頭を撫でるモモちゃん。
モモちゃんには全部見透かされてるんだろうな。と、自分が嫌になって俯いた。
次の瞬間――、
「月岡さーん!!コージ告られたって」
なんて同じクラスの男子の声が響き渡から、身体が固まった。
「違うって、告白じゃ無かったんだよー」
続けて、コージくんの平和で緩やかな声が耳に入る。
なんで、私を巻き込むのか。
気になるけど、名指しはやめて欲しい。そっとしてくれればいいのに。
「あ、そうだ。チル、今日、傘持ってる?」
「え、あ、うん」
「雪降ってきただろ?帰り入れてって」
コージくんは凄いと思う。このタイミングで傘入れてって。少しは空気読んで私にきづかってくれればいいのに。
周りの男子達がニヤニヤしてるのを、コージくんは気にしてないみたい。
「や、やだ……」
「えー、なんでだよ!ぬれて帰れっていうのかよ」
断ったところで、周りからは「コージが振られた!」なんて、ギャハハと笑い声が上がる。
感じ悪くて、こういう雰囲気好きじゃないのにな。
「モモちゃん、私帰るね!また明日」
「あ、あぁ。またね」
モモちゃんにだけ手を振って、カバンを肩にかけて教室の外へ出た。
学校を出ると空は薄暗くなっていた。
パラパラと降る雪を遮るように、急いで傘を開いた。
「おい、チル待てよー!」
コージくんの足に私がかなう訳がなくて、簡単に追い付かれてしまう。
「傘入れてよー!」
「……」
「無視すんなって!」
コージくんは何も気にしていないかの様に、いつもと同じ明るいトーンの声を出す。
周りには同じ学校の子が何人かいて、こっちをチラチラと見ていた。
「……今日は1人で帰りたいし。それに……」
「それに?」
いつの間にか私の隣をコージくんが歩いていて、首をキョトンと傾けている。
「さっきの子に、なんか悪いし」
「さっきの子って?」
「コージくんに告白してきてた子」
「あ、あれさー。憧れてるからって、志望校聞かれただけだぜ」
「え?」
「告白かと思ってビビッた」
でも、それって"好き"って事だよね。
確かに直接言われた訳じゃないんだろうけど。
「あ、憧れてるって……」
胸の奥のモヤモヤが強くなって、自分のものとは思えないような嫌な感情が沸き上がる。
「な、なんならつき合っちゃえば?」
「チルさぁ、さっきから何言ってんの?」
きっと、今、私は凄くひどい顔をしている。
こんな私も、こんな気持ちも、全然知らないのに。
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