第5話 変わらないもの


「コージ、お前告られたんだって」

「受験前なのに余裕だなー」

「ちげーよ!」


教室へ戻ると、クラスの男の子達が騒いでいた。

聞きたくなくても耳に入ってくる。

あの女の子達とコージくんのこと、誰か見てたのかな。

こういう噂って、なんですぐに広まるんだろう。

なんて思いながら、自分の席について、帰りの準備をはじめた。


なんか嫌だなぁ。

私の知らないコージくんがいるみたいで。

きっと、こうやって変わっていくんだろうな。


「ミチル。顔、暗くなってるよ」


まだ進路相談が終わっていないモモちゃんは、前の席に座っていて、私を覗き込んでくる。


「え?」

「よしよし、気になるよね」

「き、気にならないよ」


……嘘だけど。

私の頭を撫でるモモちゃん。

モモちゃんには全部見透かされてるんだろうな。と、自分が嫌になって俯いた。

次の瞬間――、


「月岡さーん!!コージ告られたって」


なんて同じクラスの男子の声が響き渡から、身体が固まった。


「違うって、告白じゃ無かったんだよー」


続けて、コージくんの平和で緩やかな声が耳に入る。

なんで、私を巻き込むのか。

気になるけど、名指しはやめて欲しい。そっとしてくれればいいのに。


「あ、そうだ。チル、今日、傘持ってる?」

「え、あ、うん」

「雪降ってきただろ?帰り入れてって」


コージくんは凄いと思う。このタイミングで傘入れてって。少しは空気読んで私にきづかってくれればいいのに。

周りの男子達がニヤニヤしてるのを、コージくんは気にしてないみたい。


「や、やだ……」

「えー、なんでだよ!ぬれて帰れっていうのかよ」


断ったところで、周りからは「コージが振られた!」なんて、ギャハハと笑い声が上がる。

感じ悪くて、こういう雰囲気好きじゃないのにな。


「モモちゃん、私帰るね!また明日」

「あ、あぁ。またね」


モモちゃんにだけ手を振って、カバンを肩にかけて教室の外へ出た。

学校を出ると空は薄暗くなっていた。

パラパラと降る雪を遮るように、急いで傘を開いた。


「おい、チル待てよー!」


コージくんの足に私がかなう訳がなくて、簡単に追い付かれてしまう。


「傘入れてよー!」

「……」

「無視すんなって!」


コージくんは何も気にしていないかの様に、いつもと同じ明るいトーンの声を出す。

周りには同じ学校の子が何人かいて、こっちをチラチラと見ていた。


「……今日は1人で帰りたいし。それに……」

「それに?」


いつの間にか私の隣をコージくんが歩いていて、首をキョトンと傾けている。


「さっきの子に、なんか悪いし」

「さっきの子って?」

「コージくんに告白してきてた子」


「あ、あれさー。憧れてるからって、志望校聞かれただけだぜ」

「え?」

「告白かと思ってビビッた」


でも、それって"好き"って事だよね。

確かに直接言われた訳じゃないんだろうけど。


「あ、憧れてるって……」


胸の奥のモヤモヤが強くなって、自分のものとは思えないような嫌な感情が沸き上がる。


「な、なんならつき合っちゃえば?」

「チルさぁ、さっきから何言ってんの?」


きっと、今、私は凄くひどい顔をしている。

こんな私も、こんな気持ちも、全然知らないのに。


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