第6話 小さな男の子が言ったときのように
雪が積もりだしたうっすらと白い道。一歩一歩、前に進めば足の先がじんわりと冷たくなっていく。
「チル」
コージくんの私を呼ぶ声に胸が痛くて、唇をギュッと噛み締めた。
「チール」
優しくて、穏やかで、いつも私に笑顔を向けてくれるのに。
やだ、こんな顔見られたくないのに。
「馬鹿チル!走ったら滑るぞー!!」
早く逃げたくて駆け出そうとしたところで、
「ぎゃっ……」
コージくんの言う通り足元を滑らせた。
冷たい地面にお尻をつける姿はマヌケで、情けなくて、痛さより恥ずかしさが上回っていく。
「言っただろ?大丈夫かよ」
コージくんが半分笑いながら、私に手を差し出した。
「ほら、手」
「……う、うん」
「チルの手、冷たいなー」
「ひ、冷え性だから」
「ふーん」
コージくんの手に引かれて体を起こした。
あの頃と全然違う、大きくて、骨ばった男子の手。
「コージくんの手はあったかいね」
手袋もしてないのに、何でなんだろう。
コージくんが変わっていくのも、クラスの男子に冷やかされるのも、知らない女の子がコージくんに告白したのも。
私自身が変わるのも、全部、全部、イヤだった。
そんなの私の我が儘だって分かってる。
「寒いなら……手、つなごうぜ」
コージくんがそう口にした。
目を見開けば、私の前にはトナカイみたいに鼻を赤くさせたコージくんが立っている。
――寒いなら手をつなごう
その、つながれたままの大きくてあったかい手をギュッと、強く、強く握りしめた。
「いてててっ、いてーよ!」
「う、……うるさぃ」
「馬鹿チル」
反対の手が私の頭にポンとのせられから、急に目頭が熱くなってきた。
コージくんが、あの小さな男の子と同じことを言うから。
コージくんが同じことをするから。
変わらない、から。
「コ、コージくん」
「ん?」
胸に沸き上がる感情を我慢できなくて、想いが溢れ出た。
「…………すき」
「……え?」
「コージくん、すき」
胸がぐっと締め付けられて、こぼれ落ちる涙が止まらない。
「え?えぇっ?」
「……っ」
「あー、俺も」
「う、嘘っ!」
「はぁ、終わるまで言わないつもりだったのに」
コージくんの少し照れた顔から、つながれた手から、想いが伝わってくる。
困ったように笑うコージくんにつられて、私も泣きながら笑ってしまった。
*
そして、桜の咲く季節。
変わったようで、変わらない関係の私達。
コージくんは無事 第1志望に受かって、中学時代と変わらず部活三昧の日々がつづいている。
私もモモちゃんと同じ北高に受かった。
部活は何に入るか、まだ考え中だけど。
コージくんみたいに夢中になれるものが見つかるといいな。
「チル、夜 電話するから!」
「うん」
"手をつないで一緒に大人になろうね"
告白したあの日、降り積もる雪の中で私達は約束した。
「チル、遅いー。電車乗り遅れるぞー!!」
「あ、待ってよ」
コージくんは私の手をひいて歩く。
その手からは、彼の体温が伝わってきて、私の心も温かくなる。
寒いなら手をつなごう
小さな男の子がそう言ったときのように。
──手をつなぐというコト──
手を繋ぐということ みかんの実 @mikatin73
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