第4話 変わっていくもの



結局 その日の天気予報は外れて、夜になっても雨が雪に変わることはなかった。


「長岡先輩、あの、ちょっといいですか?」

「ん?」


モモちゃんのあの忠告から1週間後のこと。

丁度、コージくんが進路指導室から出てきたところで、3人組の女の子がコージくんに声をかけた。


進路相談で廊下で待っている間、近くにウロウロしていたから、何なんだろうとは思ってたけど。

コージくん待ちだったのか。

前にリーダーっぽい女の子がいて、後が2人。上履きの色が緑だから1つ下の2年生だ。

リーダーっぽい子の後ろに隠れるように立っている子が、ちらっと私に目を向けたのが分かった。


「月岡さーん、次入ってー」

「あ、あぁ、はいっ!」


慌てて返事をして、指導室のドアを開ける。

"後輩に人気あるみたいだよ"なんて、モモちゃんの言葉が頭の中でぐるぐると回りはじめた。


「志望校は北高で変更なしかな」

「あ、はい」


修学旅行の時、クラスの女の子も誰に"告白"したとか、されたとかで盛り上がっていた。


「この間の模試もA判定で合格圏ね」

「……はい」


そういう話を聞いて、凄いなって思ったけど、身近には感じられなかった。


「だからって気を抜いちゃダメよ」

「……」


小さくて華奢な女の子だったな。肩なんか震わせて顔も真っ赤だった。

本当に告白だったら、コージくんどうするのかな。

なんか、私までドキドキしてくる。と同時に、自分だけ取り残されていくようで、寂しさがわき上がってくる。


「月岡さん、そんな顔しないで!」

「……え?」

「このままいけば大丈夫だから!」

「……」


先生が心配そうに覗き込んできたけど、私どんな顔してたんだろう。


指導室を出て大きな溜め息がもれる。

先生の話、あんまり頭に入らなかったな。

そのまま、ぼんやりと自分の教室へと足を進めていく。

廊下を歩いていると、他のクラスの子達とすれ違った。


「ほら、雪降ってきたよ」

「積もるかなー?」

「えー、寒いよ」


クスクスと笑う女の子達の会話に窓の外を見上げる。


「本当だ……、雪だ」


空からはパラパラと雪が舞はじめていた。


――寒いなら手をつなごう


変わらないものなんてないから。

あの男の子は、きっと、もういない。

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