第3話 思いでの
「なぁ、チルって、スマホ持ってねーの?」
今日は朝から雨が降っていた。
お互いの傘がぶつからないように、私達の間にはいつも以上に距離がある。
「……え?」
学校へ向かうのに、一緒に行こうと誘ったわけでも、誘われたわけじゃない。
たまたま家の前で会っただけ。ただ、それだけ。
コージくんと一緒に学校いかない日もあるんだから。
「つーか、買わねぇの?」
「あ、うん……。お父さんが、高校になったら買ってくれるって」
「ふーん」
「何で、そんな事聞くの?」
「聞いちゃいけねーのかよ」
「そうじゃないけど」
そうじゃないけど、今までだってそうだったから。
きっと、通う高校が別々になれば、また自然と話さなくなるんじゃないかな。
「なんでって、そりゃ俺とチルの仲だからだろ」
コージくんはそう言って、私に背中を向けるように前を歩き出した。
傘を持つ指先から、ひんやりとした空気を感じる。
少し前には黒いビニール傘をさすコージくん。
音をたてずに降り続ける霧雨で、学校指定の肩掛けカバンが濡れていく。
「それにしても、寒いなー」
「うん。帰り雪になるってお母さんが言ってたよ」
「マジで?やった!」
コージくんが傘を持つ反対の手でガッツポーズを作るのが、後ろからでも分かったから驚いた。
「……嬉しいの?」
「だって、雪で遊べるじゃん!」
なんて、後ろを振り返って楽しそうに目を輝かせるから、子供みたいなんて思ってしまう。
「寒いのに」
「なんだよ、年寄りかよ!雪だぞ、今年初の雪!」
「ち、違うよ、コージくんが子供なんだよ!」
傘を上に振り上げれば、
「おー、こえー!!」
そう口にするコージくんが"ひゃはは"と笑い声をあげた。
車通りの少ない、歩道の無い小さな団地。
昔。小さい頃もこの道を2人並んで歩いていた。
──チルちゃん、チルちゃん!待ってよー!!
あの頃は順番が逆だったな。
私が前で、コージくんが後ろ。
走り回る私の後ろを、心配そうに追いかけてきてたコージくん。
「なーに、1人でニヤけてんだよ?」
「二、ニヤけてなんかないよ……」
くるりと後ろを振り返ったコージくんが、ニヒヒと歯を見せる。
まさか子供の頃のことを思い出してた、なんて言えないし。笑われそうで、恥ずかしい。
「チル、足おせー」
「ごめん」
「早くこいよ」
白い息を吐くコージくんが私を見て立ち止まるから、
「う、うん」
慌てて追いかけるように足を踏み出した。
小さな2人のはしゃぎ声。
真っ白な雪道が、太陽の光に反射してキラキラして見えた。
──チルちゃん、待ってってば!そんな走ったら滑って転んじゃうよ?
──大丈夫!ほら、早く!あしあといっぱいつけよう!
──あー、危ないよ!
──痛っ……
──チルちゃん!
──うぅ、冷たぁ
──だから言ったじゃん
──だ、だって
──大丈夫?
──うー、冷たい
──チルちゃん!手ぇ出して
──うん?
──ほら。寒いなら手をつなごう
そう言って、男の子は手を差し出したんだ。
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