4-2
灰色の空の下に、揺らめく影。それを蹴破って、漆黒の騎馬隊が四方八方から陽人たちに向けて押し寄せた。
彼我の距離、目測でわずか数百メートル。騎馬の足なら一瞬だ。
しかし陽人は、悠然と長巻を灰色の大地に突き立てた。
「さて、お手並み拝見といこうか。手出し無用って言われてるんでな」
〈は? 何それ〉
〈シャドマ戦わねーの?〉
〈なんか三国の協会がごにょごにょしたらしい?〉
〈はい終了解散撤収〉
「この状況でそれ言いますっ⁉ 私たちだって危ないですよっ⁉」
〈それな〉
〈Remiちゃん正論〉
〈素Remi助かるぺろぺろ〉
〈いやまあロズが戦うの見たいけどさあ〉
シャトが映し出すホログラムに、様々なコメントが流れる。
そんな中、世界に冠たる
「迎え撃ちますっ! カテリーナ殿、足止めをっ!」
「いいだろう」
ロザリンの声に、カテリーナが空いた左手をかざした。
「……
抑揚のない声とともに、周囲が真っ白な霧に包まれる。
黒騎兵たちの突撃が止まった。かすかに見える影の動きを見るに、同士討ちしている気配すらある。
カテリーナは鼻を鳴らすと、ふたたび左手を繰った。
「
声に合わせて、左手の中に青白い銃弾らしきものが生まれる。かと思うと、マスケット銃の中にすっと入りこんだ。
(ほう、
圧縮、整形に加えて、属性まで付与しているらしい。かなり高度な芸当である。
感心している間に、カテリーナが銃口を天に向けた。
「
青白い光が、灰色の空を奔る。
上天に届いた光が、雨のように降り注ぐ。霧の中で右往左往する黒騎兵たちの影が、霧の中で消えていく。
〈うおおおおおお〉
〈いきなりブチかましたね(#ロシア語)〉
〈↑ロシアの有識者さん、彼女はいったい何したんだい?〉
〈
〈曾祖父から受け継いだ
〈あのボロいマスケット銃、そんな曰く付きなのか〉
〈
コメントに流れた解説の通り、黒騎兵たちはまともに身動きが取れていない。
後続もいるようだが、片っ端から霧に阻まれている。
「なるほどね、まずは場を抑えたか」
「すっ、すごい……っ! あんな強大な魔法を、一瞬で……!」
玲美が驚くそばから、ロザリンが駆けた。
「吼えろ、
瞬間。
叩きつけられた斧の刃を起点に、灰色の大地が爆ぜた。
隆起した岩と溢れ出る光によって、黒騎兵の一角が吹き飛んでいく。
「で、出たぁ~……っ! ロズの
〈Remiちゃん詳しいな~w〉
〈ミーハーで草〉
〈さっきの態度からしてガチファンだもんね〉
〈そうか、推しと共演ってことになるわけか笑〉
〈
〈Aランの
玲美がだらしない顔をする中、ロザリンは霧の中に斬りこんだ。黒騎兵たちを次々と屠っていくのが、影の動きで分かる。
しかし黒騎兵たちを阻んでいる霧の縛めは、徐々に薄まりつつあった。
(
そこへ、カテリーナがマスケット銃を片手で構えた。
まるで縁日の屋台で射的に興じるかのように、霧から抜け出てくる黒騎兵たちを片っ端から撃ち抜いていく。
〈まるで表情変えてねえの草なんだ〉
〈美人なんだけどなあ〉
〈それがいいんだよ! あのクールさがたまらなくいい!(#ロシア語)〉
〈どこの国にも強火勢はいるんだなw〉
〈推しからしか摂取できない栄養素がある。
程なくして、周囲には大量の
「……二分三十秒。やるじゃないか」
陽人は腕時計を見ながら、二人に微笑みかける。
「誤算でしたわ。最初から、これほど大技を出すことになるとは」
「逆に言えば、奇襲をかけてもこの程度ということだろう。たかが知れている」
ロザリンとカテリーナは、さっさと
が、顔色はいまいち優れない。
その時。揺らぐ影の向こうに、気配が生まれた。
次の瞬間、黒い光弾が陽人たち目がけて放たれる。
二人が――玲美が。同時に、動いた。
「
ロザリンが放った光の障壁が黒い光弾とぶつかり、粉々に砕け散る。
間髪入れずに次弾が来るが、カテリーナが放った氷弾がことごとく撃ち落とす。
「
玲美の声とともに、盾についた四つの突起が、意志を持つかのように飛んだ。
前列をカバーする位置で菱形の方陣の形に並ぶと、光の膜を創り出す。
〈新装備お披露目キタ――(゚∀゚)――!!〉
〈メガビームシールドやんけw〉
〈
〈こっちはこっちで何でもアリだな〉
〈
ホログラムにコメントが流れる中、黒い光弾が光の膜によって弾かれる。
影の向こうから現れたのは、北の丸でも見た黒足軽たちだった。
「飛び道具なら……こちらも得意だがなっ!」
カテリーナが氷弾を創り出し、銃から撃ち出す。
一射するたびに、並んだ黒足軽たちが消えていく。
しかし長篠の鉄砲隊の再現なのか、倒したそばから後続がぞろぞろと出てくる。
「
ロザリンが放った巨大な光の矢が、黒足軽たちの一角をまとめて消し飛ばす。
進めるかと思ったのも束の間で、彼方からすぐに替えの部隊が現れた。
「ええいっ、キリがない……!」
「もうじき二分だ。そろそろ出ようか?」
「いらぬ心配ですっ!」
〈シャドマ空気読んでるようで読んでないの草〉
〈煽りにしか聞こえねえw〉
〈でもジリ貧になったらシャドマやRemiも危険よな〉
〈You、もうぶん殴っちゃいなYO!〉
コメント欄に目をやっている間に、周囲は黒足軽たちに囲まれつつあった。
その時、玲美があさってのほうを指さす。
「見てくださいっ! あっちなら行けそうですよ!」
見れば囲みの一角だけ、明らかに黒足軽たちの数が少ない。
「チイッ! あちらへ抜けるぞっ!」
「心得ました! ……
光の矢が黒足軽たちを焼き、一筋の道ができた。
カテリーナが氷弾を撃ちながら殿軍を務め、ロザリンが先頭を走って道を埋めようとする黒足軽たちを突き伏せる。
陽人と玲美は、二人の間に立つようにそろそろと進んだ。玲美がちゃっかり盾の鱗甲でカテリーナを守っているが、自衛と言い張れる範囲だろう。
影を抜けた先には、小高い丘が見える。
黒足軽たちが追いすがってくるが、カテリーナの弾幕のおかげか飛んでくる弾はわずかだ。
「あの丘の上に退避しましょう! 高所を取って殲滅すれば……っ!」
ロザリンが足を止め、息を飲んだ。その後ろを走っていた玲美もまた、丘を見て表情を強張らせた。
釣られて見た陽人は、思わず口の端を吊り上げる。
(なるほどね。前門の虎、後門の狼ってか)
丘の上には、いつの間にか黒騎兵たちが陣取っていた。すでに横陣を組んで、今にも突撃せんばかりだ。
「どうしたっ⁉ さっさと……っ!!」
異変に気づいたカテリーナもまた、肩越しに振り返った途端に顔を歪めた。
背後に、黒足軽たちの姿がふたたび見え始める。
黒騎兵たちの馬が一斉に、前足を蹴立てて
「まさか、元々このつもりで……⁉」
「逆落としだと……⁉
ロザリンとカテリーナの言葉は、馬蹄の音がかき消した。
真っ黒な津波のようになった黒騎兵たちが、一気に崖を駆け降りてくる。
その姿が、ロザリンの目前まで迫った時――。
「……<
並び立つように現れた影の大波が、黒騎兵たちを弾き散らした。
黒い姿が一瞬にして消え、
「なんだと……っ⁉」
「今のは、動画にあった……!」
カテリーナとロザリンが、驚愕の声を上げる。
二人の視線は、左手をかざした陽人に向けられている。
「……二分四十五秒。ちょっと早いが、まあいいか」
陽人はそう言うと、長巻を構えて黒足軽の群れへと突進した。
*――*――*――*――*――*
ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
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