第四章 最強おじさんと共同攻略
4-1
雲の多い青空の下、山に囲まれた草原を風が渡る。周囲には水田と、ぽつぽつと建つ民家。あとは古びた木の柵があるのみ。
――
かつて
「一番乗りだな」
「関係者としては、ですけどね……。まったく、どうやって嗅ぎつけてくるんだか」
玲美が見つめる方角からは、遠巻きに喧騒が聞こえてきていた。
なんでも、『長篠に次の
「そういえば宵原さん。前から気になってたんですけど、どうやって
「ああ。君と北の丸公園で会った時、
「へえ。全部が全部、
「今まで攻略された
即日攻略が目安のEランク
「っていうかそれ、ひょっとして日本以外にも……?」
「かもな。俺は日本国内しか回ったことはないが……」
などと話しているうちに、上空に三機のヘリコプターが現れた。
そのうち一台が、陽人たちのすぐ近くに降り立つ。降りてくるのは、色黒の肌をした黒髪ベリーショートの女性――
「よお、お疲れさん。いよいよだね」
「お疲れ。間に合ったみたいだな」
「ああ、お待ちどうさん」
その言葉を聞いて、玲美が顔を輝かせた。
「わ、あ……! わざわざ持って来てくださったんですかっ⁉」
「それだけ、ってわけでもないけどね。まあ、まずは見ておくれよ」
環は得意げに言いながら、持ってきた包みの梱包を解く。
細長い包みから出てきたのは、水色の直剣だった。刃渡りは七十センチほどで、柄が両手で持てるほど長い。
もうひとつの円形の包みからは、突起がついた菱形の盾。こちらも水色基調のカラーリングだが、突起の部分は漆黒に染まっている。
「はあうあぁぁぁあうぁあ……すっ、すっごおい……!」
「この色、黒竜の
涎をたらさんばかりの玲美を尻目に、環に問う。
「剣はあんたらが持ってきたやつだけど、芯に使った黒竜の髭の影響で染まったみたいだね。盾のほうは、黒竜のやつをフルに使ったよ。鱗と相性が良すぎた」
「こいつは豪華だな。俺の
「どうだか。あんたのは目釘の一本まで
「こっ、これっ! すぐ使ってみても大丈夫ですかっ⁉」
「ああ、いいよ。盾の突起が肝なんだ。ちょいと使い方が特殊でね……」
環が解説を始める間に、他のヘリコプターもすでに着陸していた。
ふと見れば、長い金髪をポニーテールにまとめた女性が、陽人たちのほうに歩いてくる。齢は二十歳すぎくらいだろうか。白基調に金の縁取りをした
「お取込み中、失礼します。アキト・ヨイハラ殿とお見受けしました。相違ありませんか?」
凛とした声が、滑らかな日本語を紡ぎ出す。聞いた感じも、翻訳魔法を使っていない。 よくよく近づいて見ると、陽人より身長が高い。王侯貴族の姫君を思わせる端正な風貌だ。
「ああ、そうだ。バクスターさん、かな?」
「はい、お初にお目にかかります。
「こちらこそ、よろしく頼む」
差し出された右手と握手すると、華奢な外見からは想像できない力を感じた。
「わ、あ……っ! 生ロズだああっ……!」
ロザリンの姿を見た玲美が、だらしない表情に戻る。とても配信に流せるものではない。
「ロズ……?」
「知らないんですかっ⁉ イギリスのトップ
「ロズはわたくしの愛称で……そうまで言って頂けると光栄です。レミさんですよね。動画、いつも拝見しておりますわ」
「ひっいいいっほんとですかあああっ! ありがとうございますっ!」
そうこうする間に、最後のヘリコプターから女性が降り立った。顔立ちからそうと分かるだけで、男と見紛うばかりの短い銀髪だ。
「あれが、ロシアのトップ
玲美がぽつりと漏らす。
齢は三十手前くらいか。ロザリンとは対照的に、軍服にライフル一丁のみを背負った簡素な出で立ちである。 銀髪の女性はつかつかと近づいてくるなり、表情を変えずにじろりと陽人を見た。
「……貴様がアキト・ヨイハラか」
翻訳魔法を使っていることを差し引いても、冷淡な口調だった。 美人ではあるが、彫りが深く頬骨が高いおかげで、殊更に冷たい印象を受ける。
「ああ、そうだよ」
「
「そいつはありがたいね。さて……作戦は現地で、と聞いているんだが」
陽人の言葉に、カテリーナは鼻を鳴らした。
「それも既に決まっている。貴様らは入口を開けたら、あとは見ていればいい」
「はい……? どういうことです?」
玲美がムッとした顔で問い返すと、ロザリンが申し訳なさそうな表情になる。
「わたくしもヘリの中で初めて聞いたのですが……。今回の調査はあくまでロシアと我が国の主導による
ロザリンの言葉に、カテリーナが鼻を鳴らした。
「貴様らに出番はない。もちろん
「そっ、そんなの勝手すぎますよっ!」
玲美が食って掛かるのも無理はない。
通常、
その時――。
「はいはい、ちょっくらゴメンよ。あたしはタマキ・テツムラってもんだ」
後ろで静観していた環が、前に出てくる。
その言葉に、ロザリンとカテリーナが表情を変えた。
「タマキ・テツムラ……
「
「そのタマキさんだよ。仰々しい呼び名がたくさんあると、こそばゆくなるねえ」
「いかにあなた方とて、協会の取り決めに口を挟むことはできないはずだが?」
「あたしが口を挟むってわけじゃないよ。届け物ついでに、追加の決定事項の
カテリーナの鋭い視線を前にしても、環は動じた風もなく言葉を続ける。
「基本はさっき聞いた通りなんだがね? 日本のお偉方としては、両国の主軸であるお二人さんに万一の事態があっては申し訳が立たない、ということなんだよ」
ロザリンとカテリーナの表情が、心なしか硬くなった。
無理もない。「いくら腕自慢でも
「なので、日本側が戦闘に介入できる条件を現地で決めてくれ、だとさ」
「なるほどね……。あんたたち、
視線を移して問うと、ロザリンが前に進み出た。
「わたくしは三日前の時点で、
理由は未だ不明だが――古来から伝承されている武器は、
これらは
ロザリンがちらと隣に視線を送ると、カテリーナが不満げに鼻を鳴らした。
「昨日時点で、
そう言って、担いできた銃を掲げる。ライフルだと思っていたが、よく見ると年季の入ったマスケット銃だった。
視線を送ってくる二人を前に、陽人はあごの無精ひげに手を当てた。
(上木さんが二人、ってとこか。だったら……)
右手の指を三本、ゆっくり立てて見せる。
「三分だ。
「……なんだと?」
カテリーナの表情と声が、明確な怒気を孕んだ。
「……ずいぶんと、甘く見られたものですね」
ロザリンも声こそ穏やかだが、目がまったく笑っていない。
「長篠は元Aランク
「いいだろう。さっさと連れていけ」
「いつでも、どうぞ」
憮然とした二人を見て、環が微笑んだ。
「ほいじゃ、頑張ってきなよ」
「ああ、ありがとな。環さん」
環はひらひらと手を振りながら、その場から離れていく。
陽人が視線で合図すると、玲美が手早くシャトの背中を操作した。
「配信、開始します……。Thank you for watching! Remiちゃんねるの、Remiです♪」
〈わこつ〉
〈キタ――(゚∀゚)――!!〉
〈待ってた〉
〈共同攻略じゃあああ〉
〈うおマジでロズいるわ〉
〈ロズこっち見てえええええ〉
「本日は……お待たせしましたっ!
「……御託はいい。さっさと始めろ」
〈うお怖っ〉
〈Remiちゃん顔が引きつってて草〉
〈ロシアの友達に聞いたけど、素でこういう人らしい〉
〈でもロシアからあまり出ないだけで、やべえ強いんでしょ?〉
「そっ、それでは早速行ってみましょうっ! 宵原さん、お願いしますっ!」
陽人は苦笑すると、ふたたび二人を見た。
「一応、先に伝えておく。こういう建屋がない
二人は頷きもせず、無言で各々の得物を構える。
陽人も右手で長巻を抜くと、左手を宙にかざした。
「んじゃ、行くぜ……
のどかな景色が揺らぎ、影が広がる。
景色が置き換わった、その先で――。
『ウオオオオオオオオッ!』
――戦場のど真ん中に出た陽人たちに、黒い騎兵たちが殺到した。
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