マジで黙れよ


「歩けるか?」


「うーん……」


「おいってば!」


「うーん……」


どの位の量のアルコールを飲んだか、時間がどの位経過したか全く記憶にない。居酒屋を出た頃は既に真っ暗になっていた。

夏の夜の程よく涼しい空気が酔った頭を気持ちよく刺激する。


それでも、足元が覚束無くてふらふらしている私は、ダイに抱える様に腰に手を回されていた。



「ダイのエッチー!ひゃははは!!」


「黙れよ、今電話するから」


「変なとこさわんないでよー!!」


「触ってねぇし……」


「いやーーー!!キャー!!お兄さん、やめてよー!!!」

「お前バカか?マジで黙れよ!!」


なんて台詞が溜め息と共に続けられて、顎をクイッと持ち上げられた瞬間──



「……っ、」


ダイの顔が近付いて、柔らかい唇が私の唇へと付けられた。


「ダ、ダイ?今……」


「……」


田舎とはいえ駅周辺に何人か通行人はいる。

公衆の面前でこんな事をすれば、興味本意で注目を受けるのは当たり前の事。


酔っ払いのオヤジがとか会社帰りのOLがどうとか、そんな周囲の反応は風景に同化してぼんやりとしている。なのにダイの姿だけはハッキリと、私の瞳に入ってきた。


気恥ずかしそうに、まるで悪い事をしてしまった子供の様な表情をしている。

でも、視線だけは私にしっかりと向けていた。


あれ、既視感……?

いや、違う。前にもどこかで見た事がある様な。



──アリカのばーか !!


紺色のランドセルを背負った男の子が、顔を真っ赤にさせてそう叫ぶ姿が頭に思い浮かんだ。



「……ちょっ」


口元に手を当てられた瞬間、指が侵入して思いきり口を開かれる。その隙間から深いキスが降り注いできた。

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