最初の訓練と不思議な感覚

 九条の指導のもと、聖司は初歩的な催眠術の訓練を開始した。最初は簡単な自己暗示から始まり、少しずつ感覚を研ぎ澄ませていく。呼吸を整え、心を静め、自らの意識に語りかけるようにして自分自身を変えていく。


 だが、訓練を重ねるうちに、聖司はある異変に気付き始めた。


 「……なんだ、これは?」


 友人と会話をしている最中、相手の言葉が「文字」として視界に浮かび上がる感覚があった。それは単なる錯覚ではなく、まるで目の前に見えない字幕が表示されているような感覚だった。


 さらに、周囲の景色が徐々に違ったものに見え始めた。教室の壁や机、歩いている生徒たち……すべてが「データ」として構築されたように感じる。まるで世界の裏側に潜むコードの断片を覗いているかのようだった。


 「これは、訓練の影響なのか?」


 だが、それはまだ序章に過ぎなかった。


 ある夜、聖司は鏡の前に立った。日常的に見慣れた自分の顔。しかし、その瞳の奥に「別の何か」が存在することに気づいた。


 「……俺の中に、誰かいる?」


 ゾクリとする感覚が背筋を駆け抜ける。その瞬間、背後から囁くような声が聞こえた。


 「ようこそ、言語による支配者の世界へ。」


 振り向いたが、誰もいない。


 だが、その声は確かに聖司を導くように響いていた。

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