境界を超えた瞬間

 驚いて振り向くが、誰もいない。


 しかし、その言葉が脳内に響いた瞬間、聖司の内側に封じられていた「何か」が目を覚ました。


 胸の奥から湧き上がる奇妙な感覚。視界が歪み、目の前の世界が波打つように揺れる。


 「これは……?」


 思考がまとまる前に、空間が静かに書き換えられていく感覚があった。


 指先を見つめると、そこに広がるのは透明な波紋。まるで言葉が形を持ち、空間を歪ませるようだった。


 九条が静かに微笑んだ。


 「お前はすでに境界を超えたな。」


 聖司は息を飲む。これは、催眠術の枠を超えた何かだ。自らの認識が、現実そのものに干渉している――。


 理解が追いつかないまま、周囲の風景が変容する。机が消え、壁の色が淡く溶け、教室の境界が曖昧になっていく。


 「これは……俺がやったのか?」


 九条は頷き、手を広げた。


 「言葉はただの道具ではない。世界の根幹を成すものだ。お前の意識がそれを理解した時、現実を改変する力が発現する。」


 聖司は息を整えながら、その力を確かめるように手を動かす。


 空気が揺らぎ、言葉にならない感覚が指先を駆け巡る。


 「俺の言葉が……世界を変える?」


 九条は深く頷く。


 「ここからが本当の始まりだ。」


 聖司は覚悟を決める。


 ここから、彼の「言葉による現実改変」の旅が始まる――。

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Leviathan katura @karasu_7

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