催眠術の本質
「催眠術は、ただの暗示だと思っているのか?」
九条蓮の低く響く声が、室内の空気をさらに重くする。古びたランプの薄暗い光が揺らぎ、聖司の影をゆらゆらと歪ませた。
「じゃあ、違うんですか?」
聖司はわずかに身を引きながらも、九条の言葉を待つ。
九条は無言のまま机の引き出しから一本のペンを取り出し、聖司の目の前に差し出した。
「これは、ただのペンだ。しかし、俺が『このペンは熱い』と言ったらどうなると思う?」
「……?」
九条は聖司の目をまっすぐに見つめながら、静かに言葉を紡いだ。
「このペンは、とても熱い。」
その瞬間、聖司の指先に違和感が走る。
視線をペンに落とす。変わった様子はない。だが、確かにその表面からじわじわと熱が伝わってくるような感覚があった。
「なんだ、これ……!」
聖司は驚きながら、ペンを落としそうになる。しかし、それを見て九条は淡々と告げた。
「お前の脳が、現実を書き換えた。それが催眠術の本質だ。」
聖司は息を呑んだ。
「つまり……これは、俺の認識が変わっただけで、本当は熱くない?」
九条はゆっくりと頷いた。
「だが、それを『現実』と呼ぶかどうかは、お前の認識次第だ。」
聖司は、ペンを見つめながら手のひらを握る。先ほどまでの熱さが嘘のように消えていた。
「催眠とは、単なる暗示ではない。認識の書き換え。認識が変われば、現実も変わる。」
九条の言葉は、聖司の心に深く刻まれる。
「もし、お前が本当に目覚めれば、この世界がどう成り立っているかを理解できるだろう。」
聖司は息を整えながら、九条を見つめた。
――この男は、何を知っている?
そして、自分は、どこまで進むことができるのか?
初めて感じた、未知への渇望。
聖司は、その夜、完全に催眠術の本質に魅了されていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。